ヨタが旅立ってから、私はただの一度もヨタの夢をみない。
夢でいいから会いたいって思っているのに、ヨタが夢に出て来てくれないんだ。
元夫から『それはヨタが私を心配してないからだ』と言われた時はものすごく傷付いたし、もしかしたらそういう事なのかな…って落ち込んだけど、今はそれは違うって思える。
それもヨタの意志な気がしてる。
ヨタがいなくなって、もう4ヶ月も経ってしまって、それなのに私はまだ毎日毎日泣いている。
毎日『ねえヨタ、ねえヨタってば…』って、何度もヨタに話しかけてる。
私がいつまで経ってもこんなだから。
だから多分、ヨタはまだ夢に出て来てくれないんだ、って思うようになって来た。
私のこの不安定さが薄らいだ頃に、ヨタはひょっこり顔を出してくれるんじゃないかって思う。
ヨタと出会ってから、私はヨタの夢をよくみていた。
それはいつも同じような夢だった。
ヨタがいなくなる夢。
ヨタが死ぬ夢。
そんな夢ばかりみた。
私は昔の恋人を自死という形で亡くした。
しかもそれをしばらくまわりに隠されていた。
だから、知らない間に恋人が死んでしまってた。
それが恐らくトラウマになってしまったんだと思う。
現実でも私は、夜、足元で丸くなって寝ているヨタが、知らない間に死んでしまったかも知れない!と怖くなって、飛び起きてヨタに触れて、生きているか確認する事を何度も繰り返した。
それはつい最近まで続いてた。
夜中にそっと階段を降りて、ヨタの寝床まで見に行ったりしてたんだ。
現実でもそんなだったから、夢もやっぱりそんな夢ばかりで。
ヨタを入れたキャリーケースを手に、知らない街を歩いていて、道に迷って。
ふと気付くとキャリーケースが無くなってて。
パニクって半泣きになって探し回る夢。
地球最期の日に、別の星に集団脱出するという映画みたいな設定で、一緒に宇宙船に乗った筈のヨタが、出発直前にプラットフォームにそのヨタの入ったキャリーケースだけが置き去りになってた夢。
出発した宇宙船はもう止められなくて。
窓の外で、キャリーケースの中から私をみつめるヨタが、どんどんどんどん離れて小さくなっていくのを、私は窓をバンバン叩いて、泣きながらヨタの名前を叫んでた。
他にも、地震に驚いて逃げ回るヨタを追いかけて、窓から落ちたヨタを追って私も落ちる夢(でもこれは落ちた先でちゃんと捕まえられた)。
ヨタが目の前で弱って死んでしまう夢。
ヨタが誰かに殺される夢。
元夫に目の前でヨタをベランダから投げ落とされる夢。
そんな夢ばかり。
だから私は毎回、必ず息荒く(酷い時には悲鳴をあげたり)泣きながら目を覚まして、そして夢で良かったと安堵していた。
だけど、最期にみた夢だけは違ってたんだ。
それは忘れもしない。
ヨタが旅立つ2~3週間前くらいにみた夢だった。
私はただヨタを見つめてて、ヨタも私を見つめてて、それは現実と一緒で老いた可愛いヨタで。
そのヨタの顔を見ながら私は、
あぁ私はこんな可愛いやつに出会えて、本当に本当に幸せだなー
って思ってた。
ヨタも嬉しそうに目をつむってみせて。
ただそれだけの、幸せでゆったりした時間の優しい夢だった。
そんな夢、初めてだった。
目が覚めた時、本当に安らかで、とても幸せだったのを覚えてる。
あの夢はきっと、最期にヨタがみせてくれた夢だったんだと思うんだ。
もういなくならないから大丈夫、ってね。
ずーっと一緒だから大丈夫だよ、ってね。
それが伝えたくて、ヨタがみせてくれた夢だったんだと思う。
それは本当に優しい気持ちだけが込められた、素晴らしい夢だったんだ。
またいつか、ヨタは夢に現れてくれるかな。
そろそろいいかなーって思ったら、ヨタ、また会いに来てよね。
私はいつまでも待ってるからさ。