12月24日(水)


相変わらずヨタは餌を食べなかった。



ネットで、食欲がない高齢猫に何をあげたら食べてくれたかという事を調べたら、生卵の黄身をあげたら舐めたというのがあった。


ヨタは半熟ゆでたまごのとろとろな黄身が大好きだし。


卵なら栄養もありそうだし!


ってんで、急いで卵を割ってヨタに黄身だけあげてみたら、ヨタはちょっと舐めた。


あとコーヒークリームも大好きだからあげてみたらお皿に入れた分は舐めた。



でもやっぱり餌は食べようとしなかった。



水っぽいものをチロチロ舐めて終わり。





とにかく元気がなくて、ソファーの上のいつもの寝床で横になってばかりいた。



妹にも一応連絡した方がいいかなと思って、ヨタがちょっとマズイかもとメールした。



でもこの時は、リアルにヨタの死を想像なんてできてなかった。



きっとまだまだ大丈夫、持ち直すって思ってた。









この日はちょうど大掃除中で、母親から二階の窓拭きをするように言われたから渋々始めた。




後で聞いた話では、私が二階の窓拭きをしていた時に、母親は庭に面した居間の大きな窓ガラスを拭いてて。



コマは脱走癖があるから寝室に閉じ込めたけど、ヨタは大丈夫だからそのままにしていたらしくて。




途中、庭に急に外猫が現れて庭の左から右へものすごい勢いで走って行ったから、母親が何事かと外猫の向かった先を見たら、そこにヨタがいたらしい。




ヨタは母親が窓拭きに没頭している隙をみて脱走したみたいで。



でも不思議な事に、外猫はヨタに近付いても攻撃はせず、追い付く直前でクルッと引き返して来たらしい。





多分、外猫はヨタに何かを感じたんだろうと思う。



そしてヨタはきっと、死に場所を探しに外に出たんだと思う。



母親はビックリして、慌ててヨタを捕まえて家に入れたと言ってた。





その頃のヨタはやたらと外を気にしていたし、多分自分の死期を分かってた気がする。





私はそんな事が起きてる事も知らず、二階の窓拭きをしてた。





だけどどうにもヨタが食べない事が気になって仕方なくて。



とにかくヨタが食べられそうなもの、強制給餌も覚悟してシリンジで与える流動食のようなものを注文しておこうと、いつものお店(ネットショップ)でいっぱい注文した。




そしてショップから連絡が来たらすぐに振り込みが出来るようにメールの確認をこまめにしてスタンバイして待ってた。



結局不安でたまらなくなって、途中で窓拭きとかどうでも良くなってしまって。





PCで『老猫 食べない 瞬膜』とかのワードで色々調べたら、


老猫の場合は脱水症状を起こしてる場合があって危険だから、2日食べられないなら医者に行って輸液すべし


とかあって。



色んな体験談みたいのもいっぱい出ていて、そういうの読んだら益々不安になって心臓もバクバクして涙が止まらなくなった。



もしヨタが夜間に急に体調がおかしくなったら、という場合を考えて、夜間の緊急時に対応してくれる獣医を探したりもした。




とにかく、この時にはもう頭の中は『どうしよう…どうしよう』ってパニクってて。




今のヨタの状態が、すぐ医者に診せるべき緊急の事態なのか分からなかったし、ましてやそんな弱った状態で医者に連れて行ったらヨタに負担になるんじゃないか、とか、グルグル考えて苦しかったのを覚えてる。




そして私はやっぱり大バカで、そんな事をしている間に時間が経ってしまってて。


あ!!!っと時計を見たら振り込みの締め切りの15時を過ぎてしまってた。



慌ててメールの確認をしたらギリギリ間に合う時間にメールを受信していて、パニクってメール確認をしなかった自分に腹が立って仕方なかった。



それからすぐに振り込みはしたけど、入金確認が出来なかったんだから発送ももちろん間に合わなくて。


ものすごく不安になった。



だって父親の時と同じことになったら…って考えが頭をよぎっちゃったんだ。



あの、美味しい介護食(ミキサー食)を作ろうとして色々取り寄せたのに、結局間に合わなかったあの時のこと。


また間に合わなかったら…って怖くなった。






結果から言って、やっぱり私は本当にダメな奴で。


また間に合わせることが出来なかった。



せっかくヨタの為に買った沢山のフードだったのに。



この時に注文したフードは、ヨタが旅立った翌日の26日に届いた。











でもこの時の私はとにかくヨタの状態が心配でそれどころじゃなくて。


ずっと調べものをしていたんだ。




途中で母親が二階に来て、窓拭きほったらかしでPCに向かってる私の姿に呆れて、窓拭きやらないのー!?みたいに言ってた。




あんな元気のないヨタを医者に連れて行くべきか迷ったから、ここで母親に相談した。




母親は私の言葉から、ヨタや私がどういう事態なのか、がやっと分かったみたいだった。






これから年末年始に入るんだし、行くなら今日がいいと思う


あの時行ってれば良かったって後悔しない為にも、とにかく一度診せた方がいいと思うよ


と母親は言った。





きっとどっちにしても後悔はするんだろうというのは思った。



それなら、やらずに後悔するよりやって後悔した方がいいよなって思って、意を決してヨタを病院に連れて行く事にした。





ダウンを着たりあれこれ準備してる最中に、本当に急に深い谷底に落ちて行くような感覚になって、ものすごく不安になった。




ヨタが死んじゃったらどうしよう!!!!!!!


って初めて、すぐそこまで来てるのかもしれない『ヨタの死』を意識して、涙が止まらなくなった。





でも、そんな泣き出した私を見て、そーんなの大丈夫だよー、と母親は笑って、それでちょっと冷静になれた。



そんな、まさか、あんな元気だったヨタがこんな急に死ぬとか、いや、ありえないよね!?



絶対そんなのないよね!?



って自分に何度も言い聞かせた。





母親はキャリーケースを納戸から持って来たりして準備を手伝ってくれた。




寒さ対策でキャリーケースの側面をプチプチでぐるり包んで、更にその上から私の赤い上着でくるんだんだ。



ヨタを抱っこして中に入れようとしたら、やっぱりキャリーケースを見た瞬間に嫌がって逃げようとした。




だけどいくら嫌がっても全然力がない感じで、そんなところも悲しかった。



若い頃はあまりに暴れるから、よく洗濯ネットのお世話にもなったくらいで。



なのに、思うように抵抗も出来なくなっちゃったんだ…って悲しかった。





とにかく、


ヨタが死んじゃうかも知れない!


ヨタが死んじゃうかも知れない!


って不安でいっぱいで怖くてたまらなくて。



私はすっかり慌ててた。




キャリーケースの中は、元々敷いてある敷物の他にペラペラなタオルくらいしか入れてなくて。


いつもなら寒い季節にはフリースも必ず入れてあげるのに、この時は全然頭がまわらなかった。



とにかく早く!早く行かなきゃ!と焦ってた。



早くしないとヨタが死んじゃう!って焦ってた。






この日はちょうどクリスマスイブで、夕飯はスーパーでお寿司を買っちゃおう、なんて昼間母親と話してたんだけど、うちを出る直前に急に母親から、これからお寿司を買いに行くのは面倒だから、夜はお寿司じゃなくていいかと聞かれた。


出来ればヨタにお寿司を食べさせてあげたいんだけどな…って思いながら、仕方ないのかなって思って『いいよ』って答えてうちを出た。




うちを出る時、玄関でスニーカーをはくのももどかしくて、寒いのにクロックスをつっかけて出かけた。



もう夕方で外は薄暗くて、そして寒くて。



おまけに自転車の後ろのかごにキャリーケースを入れたんだけど、プチプチや上着でくるんだからいつもよりサイズが大きくなってて、キャリーケースが斜めにしか入らなくて。



でももたもたしてられないからその斜めの状態のままで出発した。



フリースもないしキャリーケースは斜めだし、ヨタは寒くてしんどかったと思う。



本当に可哀想な事した。



私が車の免許を持っていたら、あんな寒い思いさせないで済んだのに。





自転車で病院に向かう間、ヨタはいつもみたいに鳴いてた。


でも声には張りもなくて、普通に優しい声で鳴くだけだった。


昔は周りの人が振り返るくらいの声で「アオンアオン」鳴いて恥ずかしいくらいだったのにな。




途中、高圧線の下辺りでキャリーケースの外側を巻いていた上着がはだけちゃったから、自転車を止めてやり直してみたんだけど焦ってたせいかうまく直せなかった。


だから後ろ手で片手で抑えながら、ヨタに声をかけながら自転車をこいだ。




病院に着いたら待合室には2~3人待ってる人がいた。



私はとにかく不安で不安で、待ってる間も涙が出てしまって、ハンカチで何度も涙を拭いてた。




今日はクリスマスイブなのに、なんでこんな事が起きてるんだろうって、何か本当に信じられなかった。




そんな状況なのに、隣にいたおばさん(よく太ったアメショを連れてた)は私にどうでもいいことをぺらぺら話して来た。



私は動物病院ではいつもキャリーケースを椅子には置かないようにしてるんだ。



いつも床か膝の上。



その時も床の端の方にヨタのキャリーケースを置いてたんだけど、何度も覗かれて(上から見えるタイプのキャリーだったから)話しかけられて。



本っ当にうるさかった。



お願いだから空気読んでくれ!!


頼むから放っておいてくれよ!!



って腹の中で叫びながら、私はバカみたいにニコニコ受け答えしてた。



私は本当にバカだった。