『色の濃い川』松木秀を読む | アマゾンに背を向けて

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短歌を作っています。鹿ヶ谷街庵です。ししがたにがいあんと読みます。

松木秀さんの歌集『色の濃い川』から好きな歌を引かせてもらいます。


ぬばたまの夜空の星を見ることを人間はいつ覚えたのだろう


老眼で神や本質見えません細部に宿りすぎているから


小学校の近くに中年男性が住んでいるという事案発生


「大人になる」とは一生のお願いを使い果たしたときにそうなる


ぼろぼろな心の窓の蝶番なおそうとすれば邪魔をする風


生きづらい人は案外死ににくい死なないから生きてしまう つらい


明るさには無知によるもの諦めによるもの愛によるものがあり


赤、明るい、明らかにする、あきらめる 語源は全部同じであるよ 


ヘイトデモ行う者ら振り回す日の丸なべて中国製で


ネガティブな方が生産的であるネガさえあればポジはつくれる


人間として生きるのが苦手ですもう鉱物になりたいけれど


有り金をみな啄木は使うだろう百円ショップであったとしても


十五夜と十五の夜の違いとは月はバイクを盗みはしない


正面の詳しい顔を知らぬまま正岡子規と教科書に会う


「痩せた悲し」がやなせたかしの中にありアンパンマンはいつもふくよか


ブラックなユーモアや、死の気配、諦観の感じられる歌集でした。固有名詞を織り込んだ歌や競馬の歌も多かったです。以前より文明批評的な歌が減り、博学な部分やダークな抒情を感じさせる歌が増えたように思いました。読んでいて、ニヤりとしたりする歌や気づきの歌も多かったです。貴重な読書の時間でした。キラキラする歌集に飽きた人におすすめの渋い大人の為の歌集です。