意地(2) | ゆんたの妄想ブログ

ゆんたの妄想ブログ

ブログの説明を入力します。

人気の無い商店街、その片隅にある小さな町工場。

そこに二人の男がいた。


ひとりは全身埃まみれ、ボコボコの八つに割れた腹筋は赤黒く変色し、痛々しい。

左腕も腫れており、ぶらりと垂れ下がり持ち上がらないようで、立っているのもやっとといった様相の疲弊しきっている青年。

かたや全身にはちきれんばかりの筋肉をみなぎらせ、少し擦り傷のある男。


とある事情で、始まった決闘。いや、もはや戦いにすらならない二人の実力差。しかし青年は一歩も引くことも無く男を睨みつける。実力差を肌で、頭で、心で感じながらも立ち向かうその青年の姿勢に、男は真っ向から向かい合い、視線をぶつける。


「うおおおぉぉぉーーー!!!!」


青年は自身を鼓舞するかのように声をあげる。一歩、また一歩と前に歩み出て、男の前に立つ。

真っ直ぐに男を睨みつけ、男の頬を殴る。


バキッ!!!


男は避けることも防ぐこともせず、青年の拳を受け止める。

青年は何度も殴りつける。男も何度も受け止める。

男の意地のぶつかり合い。

青年は目標を男の腹にかえる。

ひたすらに男のボコボコに盛り上がる筋肉の詰まったシッスクパックを殴る。無我夢中に。何度も、何度も。

疲労が蓄積した右腕は、もはや威力の乗ったまともな拳は打てていない。

それでも男はただただじっと青年の拳を受け止める。

そしてついに、青年が男にもたれかかる形で拳が止まった。


「ぜぇ、はぁ・・・・」

「おわったか?なら次は俺の番だな。」


全身に滝のような汗を流している青年は。その男の言葉を聞き何とか反応しようとするも、体がいうことを聞かない。男にもたれかからないと立っていることすらままならない青年に、もはや抵抗するすべは無い。

男はもたれかかる青年の髪をつかみ、無理矢理に顔を挙げさせる。苦痛に歪み、疲労をにじませる顔色、しかし、目の光はなおも消えていない。男はその瞳にゾクリと背を震わせる。底知れぬ青年に対する恐怖か、それともこれを潰したいという高揚感か、男にすらそれはわからなかった。

だだひとりの漢としての征服欲、支配欲…興奮により分泌されるホルモンが男をさらに高めさせる。気づけば男の身体はさらに大きく、たくましく、全身のみなぎる筋肉が主張を激しくさせている。


ゴガッ!?


男のアッパーが青年に叩き込まれる。あまりの威力に青年の体は地面から離れ、打ち上げられた。そして、ちょうど男の目の前にさらけ出された青年のエイトパック。そこに向けて、全身の筋肉を活性化させ、バネを使い、渾身の一撃を叩き込む。


ドッボォォォオオオォォォ!!!!!!!

グッチャッ!!!!!


激しい音とともに、青年のエイトパックに叩き込まれた男の拳は、その防壁を完膚なきまでに押しつぶし、内蔵をえぐり、青年の体をくの字に、いや半分に折りたたみ、そのままの勢いで殴り飛ばした。


ドガッ!!


「はがぁ…う、げぇぁあぁ…ごぼぇぇええぇぇぇ!!!」


壁に激突し、そのまま地面に倒れふす青年。

男の拳のあとが残る腹を片手で抑え、悶え苦しんでいる。強烈な吐き気に襲われ、もはや息も絶え絶え。そんな青年に、近づいてくる男。青年は必死にこらえるも、吐瀉物はどんどんと溢れ、周囲に異様な匂いが充満する。


「おいおい、あんまり汚すんじゃねぇよ。ここはもう俺らのもんなんだからよぉ。」


そんな言葉ももはや青年の耳には届いていない。強烈な吐き気、腹の激痛、意識を手放すことも出来ずにただ悶え苦しむ。


「さっきあんだけ殴らせてやったんだ、1発でおねんねってのは割に合わねぇんじゃねえのか??」


戦う力などもう残っていない青年に対し、男はその大きな手で青年の頭をつかみ持ち上げる。力なくぶら下がる青年。指1本動かす力もないにもかかわらず、その目は未だに死んでいない。

なんという精神力。もはや力の差は歴然、勝負も決まったようなもの、しかしこの勝負は終わらない。


青年の心が折れない限り。

男が満足しない限り。

漢の意地のぶつかり合い。


青年の心を折るか折られるか、まだ決着はつかない。