童話・祈り(文・HIROAKI/絵・SUIREN

やがて終わる世界に

愚かな火を使った
人間の過ちで
世界が再び悲鳴をあげた。

空は狂い
大地は裂け
海は血の色に染まった。

1日に2度
太陽が沈んだ。

人間は自分たちの行為を
省みることなく
人間が人間を呪った。

やがて
独りよがりな
人間でさえ
神に祈りはじめた。

しかし
神は自らの耳を
切り取ってしまい
心を閉じられた。

人間の祈りが神に
届くことはなくなった。

やがて人間は
祈りが届かぬと知ると
神さえも罵倒しはじめた。

己の欲望のために
過ちを一向に正すことなく
世界を我が物顔で
枯らし荒らし破壊する人間。

神は怒り
見せしめに
たくさんの都市を
雷で焼き尽くした。

それでも
人間の愚行が
止むことは無かった。

草花は枯れ
大地はひび割れ
海は干からびた。

空は光を失った。

誰もが
先に逝けるものを
羨むようになったある日

白い少年が
小鳥を連れて現れた。

その姿かたちゆえ
人間から恐れられ
住む場所を追われ
人里離れた山奥で
静かにひっそりと
森と生きて
川と生きて
花を愛でながら
大地と暮らしていた少年。

少年は
聖なる山を見上げると
神に最も近い礼拝堂を睨んだ。

そして
目を閉じて小さく呟いた

『優しい
森よ川よ大地よ。
みんなをこんなに
傷つけてしまってごめんよ。
僕ら人間は弱い生き物なんだ。
お願いだから
もう一度だけ
人間を許してやっておくれ。

僕がみんなに
恩返し出来ることはね
神様に祈ることだけ。
今、僕にできる精一杯だ。
こんなことしかできない僕を
許してね。
身寄りのない僕を
育ててくれてありがとう。』

天変地異に
恐れおののく哀れな人間たち。

それを尻目に
独り山を登り
礼拝堂へと向かう少年。

少年のただならぬ
決意を知った小鳥は
少年から
離れようとはしない。

小鳥が心配そうに言う
『今、
この山なんかに登ったら。
君は
神様の逆鱗に触れて
殺されてしまうよ。
森へ帰ろう。
ねぇ、帰ろうよ。』

少年は微笑むとこう告げた。
『ねぇ、小鳥さん
君は森へお帰り。
そして、
もしも、もしもね
僕の祈りが
神様に届いて
僕らの仲間が
許してもらえたのなら
もう一度、その喉で
君の美しい鳴き声でさ
みんなに
新しい季節を伝えて欲しいんだ。』

小鳥は
真直ぐな澄んだ
青い瞳を観ると
くるくると空を舞い
この世で
一番美しい鳴き声を奏でた。

大きく大きく少年の頭上を旋回し
彼方へと去っていった。

険しい山道を登りきり
礼拝堂に辿り着いた少年は
血だらけで感覚のない脚を
軽く振ると跪き
手を合わせ祈り始めた。
『神様
あなたの息子の仲間
愚かな人間をお許しください。』

少年を
人間から匿ってくれた
豊かな森のために祈った。

少年を
行き場のない少年を
受け入れてくれた
優しい川のために祈った。

少年を
虐げ追いやった
人間たちのために祈った。

何度も祈った。
何度も
何度も祈り続け
やがて新月の夜に息絶えた。

そして
奇跡が起こった。

神の耳に
届くはずのない
祈りが届いたのだ。

神は
人間にあるまじき行為に
驚かれ
少年の肉体を
何度も引き裂き
血肉、骨のすべてを雷で
焼き尽くされた。

刹那
灰となった少年が
かつて
自分と恋に落ちた人間との
間に生まれた
哀しい魂と悟られた。

神は灰を寄せ集め
少年の居た礼拝堂ごと
山を切り取り持ち去られた。

そして
人間への
最期の審判を先送りされた。

やがて
閉ざされた世界に
小鳥の鳴き声が輝き
新しい季節が訪れた。

人間は歓喜し涙したが
誰一人
少年のことを
思い出すことはなかった。



☆後記
以前描いた(書いた)
異形の少女』を元に
創作したものです。

画家・SUIRENの絵が
付きました。

人間は万物の霊長だと
自惚れます。
全て、自分達の尺度で
モノを観て人間中心の
世の中を創り上げました。

この世界は
多くのものの
犠牲に成り立っていることを
すぐ忘れてしまいます。

人間は
哀しい生き物ですね。

何度でも
何度でも
過ちを繰り返す生き物。

僕らは
後、何回
許してもらえるのでしょうか?
(ひろあき)

☆カットされた内容について
SUIRENには話したのだけれど
一部会話がカットされました

SUIRENへ宛てたメールより
抜粋

↓こんな感じ

小鳥との会話

小鳥『どうして君は
君を追いやった
人間の味方をするの?』

少年『僕のママは人間。
だから僕の半分は人間なんだよ。
僕のママはとても優しかった。
ママみたいな人間だってね。
いるんだよ。
怖い人ばかりじゃなくてさ。
だから僕は
まだ人間に期待してたりする』
みたいなくだり。
⇒ママは、
異形のこの子を産んだことで
人間に殺されたんだけどね。
悩んでカットした。
本にするときは追記するかも

◆初稿 2010.9.29