ダン・ダゴスティーノ インタビュー (1994年11月) | 禁断のKRELL

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クレル社 社長 ダニエル・ダゴスティーノ
インタビュー (1994年11月)




ダゴスティーノの個人的なオーディオライフや、
クレル社独自のリスニング・テストなどのお話しを伺った。


「ジャズの魅力がオーディオの道へ導く」






―――――― この10年間に22回も来日されているそうですね。



ダニエル・ダゴスティーノ(以下DD)

外国を訪ねるのではなく、アメリカの都市に来ましたよ、という気持ちですね。
日本の友人たちに会うのがとても楽しいのです。それに、
アメリカで毎日食べている寿司が、本場で食べられるのがなによりの
楽しみですよ(笑)




―――――― 突然ですが、初めに貴方のオーディオライフを伺いたいの
ですが、企業人としてではなく、一個人のオーディオファンとして・・・・・・




DD まず最初にオーディオ機器に触れたのが11歳ごろだったと思います。
スコットかフィッシャーのアンプのキットを組み立てたことから始まりました。
その後、壊したラジオは十数台、組み立てたラジオの数は数十台と
言われています(笑) 高校までは家族と共に生活していたのですが、
この間、一瞬たりとも音楽やオーディオと切れたことはありません。
ジャズを聴き、アンプを作り、スピーカーを組み立てて、ジャズの
ライブを録音したりする日々を送っていました。大学はカリフォルニアの
UCLAバークレー校でしたので、単身アメリカ西海岸に移り住みました。
ここで本格的な電子工学エンジニアリングを学びました。また、
ニューヨークとカリフォルニアというアメリカ文化の中心地で生活した
ことにより、アメリカの大きさや素晴らしさを肌で感じることが出来ました。
なかでもジャズをライブで聴けたこと、このことは私のオーディオライフ
にとても大きな意味を持つようになりました。














「スピーカーメーカーの設計者を経てクレル社を設立」





―――――― 会社設立までの経緯を教えてください。


DD 大学卒業後、デイトンライト、そしてゲールというスピーカーメーカーで
設計者として働き、その後グレイ・ホワイト・ウェルというオーディオメーカー
に勤務しました。79年に妻と二人でクレル社を設立したのですが、
(現在は離婚、その後再婚) その理由の一つは好きなジャズを妻と一緒に
いつも聴いていたかったから。また、世界中の音楽ファンに、
「素晴らしいジャズミュージック」を私のアンプを通じて聴いてもらいたいと
思ったからです。





―――――― 今日でも奥様と一緒にジャズをお聴きですか。


DD 毎週土曜日は家で二人でCDを聴くか、ライブハウスや
コンサートホールに出かけます。若いころはジャズ一辺倒な
我々二人でしたが、このごろはクラシックもかなり聴くように
なりました。コンサートホールのほとんどはクラシックの
コンサートなのです。夫婦とも少し年を取って、落ち着いてきた
というのも影響していると思います。






―――――― クレルの一号機は会社設立の翌年、80年に
登場しましたが、それから15年たった今日、開発のポリシー、
コンセプトに影響はありましたか?



DD 変化はないですね。








KRELL KSA-50









―――――― 15年間の一貫した開発コンセプトを教えてください。


DD 「音楽性の追求」 ということが言えると思います。
つまり、音楽家、作曲家、演奏家、レコードのプロデューサーや
ディレクター、録音エンジニアが命をかけてLPやCDに凝縮した
「音楽性」をダイレクトにスピーカーから再生してあげることだと
思っています。したがって、開発途中でのリスニングテストは、
私が何十回、何百回と繰り返し行っています。これも、我々の
商品のゴールが、「音楽性の追求」にあるからです。




―――――― ジャズの素晴らしさを多くの人たちに伝えるために、
クレル社を創立したと説明されましたが、ではクレル社のアンプは
ジャズ・ファン向けのものと考えていいのでしょうか。



DD 私の音楽のファーストチョイスがジャズであることは間違いありません。
ですから、設立時はリスニングテストにジャズを多く使っていました。

しかし、先ほど話したようにここ数年はクラシックのコンサートにも
よく足を向けるようになりました。クラシックのCDも多く聞くように
なっているのです。開き直りとも取れるかも知れませんが、ジャズの
音楽性を正しく再生できるアンプは、クラシックやその他の音楽性も
正しく再生できるとわたしは信じています。なぜなら、クレルは創業15年
ですが、アメリカだけではなく、世界中で多くのユーザーから指示されて
いますからね。




―――――― リスニングテストについてお話し伺えますでしょうか。



DD まず、使用するスピーカーは数種類ありますが、会社では
デイトンライトで再生しています。このスピーカーはその昔、
自分で設計していたものですから、よく知っている仲間なのです。
ここでアンプのドライバビリティ、音の深み、スペース感などの
チェックを行います。またクリップシュでの再生も欠かせません、
能率の高いスピーカーですから、アンプの低レベル時の再生
チェックではどうしても必要なのです。













家ではアポジーのグランデとウィルソンのX1の二種類を使用しています。
この二つのスピーカーは当然ですが、別の部屋にセットされています。
この二つの個性のある、しかし素晴らしいスピーカーの能力を十分に
発揮できるかどうかを繰り返しテストしています。




―――――― CDプレイヤーのリスニングテストはユニークな
方法だと伺いましたが・・・・・・。



まず、アナログレコードの信号をADコンバータに経由し、CD-R録音
のCDを作成します。これを元のアナログレコードの音と比較し、
時間軸の調整を行っていくのです。



―――――― アナログレコードとの比較を行うという事は、
アナログレコードの音のほうが優れているということでしょうか。



DD アナログレコードは100年を越える歴史があるため、その録音技術は
かなり完成されていると捉えるべきでしょう。決してデジタル録音
技術が低いというのではなく、もっと改善される余地があるということです。
ですからアナログと比較を行っているのです。もちろん、
CDもテストソースとして使用しますよ。



―――――― アンプの時もリスニングテストで主たるソースは
アナログレコードなのでしょうか



DD アンプの時はCDが中心です。しかも独特のテスト方でね、
これについては企業秘密とさせてください。



―――――― もうひとつ、クレルが創業以来Aクラスアンプに
こだわる理由はなんなのでしょうか。



DD まず、リニアリティの面ではクラスAが優れています。
最高です。これは常に電流が流れているため、トランジスタ・ノイズ
がないと考えられているからです。しかし、Aクラスアンプであれば
どんなものでも良いという訳ではありません。むしろ、しっかりした
電源のアンプでなければ、各種スピーカーに対して安定した信号の
供給はできなくなります。この点をクレルのアンプは目指しているのです。
また、最高のアンプを作るためには常に最高のパーツを揃えることも
大切なのです。そのためにカスタムパーツを開発することもあります。




―――――― どのようなパーツでしょうか。



DD 電源トランスは効率が良く、非常に静かな潜水艦のトランスを
作るメーカーに発注しています。アウトプットのトランジスターは
モトローラ特注のキャノンタイプTO-3、この他にも電解コンデンサーや
フィードバックタイプの安定化電源用パーツなどもあります。








KRELL KAS





―――――― クレル製品の特色の一つに、誰が見ても
クレルということが分かり、しかも美しいデザインがあります。
今回のSシリーズにはメーターが付きましたが、これは外部のデザイナー
によるものなのでしょうか。



DD ほめていただいたものと解釈します(笑)
回路デザインも機構も、そして外観もデザインはすべて私が行っています。
だから、15年前の一号機から、あるいはプリアンプ、CDプレイヤー
などの外観を統一しており、そして誰が見てもクレルなのです。




―――――― あなたの楽しみといいますか、趣味はなんでしょうか。




DD もちろん音楽を妻と二人で楽しむ事です。そして、最大の楽しみは
自分が頭のなかに描いた回路を一枚の設計図にまとめ、
プロトタイプを作り、それが自分の家のリファレンスシステムに繋がれて
音楽がスタートしたとき!!それが私が頭の中で描いていた通りに
再生できたとき!!これが最高の楽しみですね。こういうアンプは
ほとんどなにも手を加えることがないのです。プロトタイプを
そのまま製品にすることができます。こういうアンプは間違いなく
成功します。今回のKAS、KAS2、KAS300sなどのSシリーズは
私に最大の楽しみを与えてくれた子供たちなのです。



―――――― ありがとうございました。







SOUND STAGE №24 1994 WINTER P208 聴き手 編集部