Aug 9. Tokyo





















幸せに浸り切っていた自分はなんと愚かだったのか。




























「キョーコ......?」
ぽつり、と呟かれた問いかけに、答えは返ってこない。
一ヶ月振りの我が家はがらんとしていて、存在するはずの愛おしい妻は、いない。


未来を誓ってから、あっという間の3年間。
永遠を誓ってから、あっと言う間の3年間。
神様の前で愛を誓い合った前と変わらず可愛くて、奇麗で。
誓い合った後も予想通り、最高の奥さんで。
「幸せ」がこんなにも自分を満たしてくれていると思うと、やっぱり幸せで溶けてしまいそうだった。



人というのは貪欲な生き物で、今以上を求めてしまう。
もっと。もっと。もっと。
彼女を愛して、彼女から愛されて。
もっと。もっと。もっと。
彼女と幸せで、満たされたかった。






だから・・・・

・・・・・・・・・・・未だに他人行儀なとこがある「後輩」な彼女に。
ほんの少しだけ。
ヤキモチを妬いてほしかった、だけ・・・・・・・だったんだ。



あちらの女性は思ってた以上に俺の好意に調子に乗ってしまって、マズイかも?とは、思ったけれど。
やり過ぎ位が、ちょうど良いかと思って、何の魅力も感じない女性を傍に置いた。

そして、キョーコに連絡をする時には、あえてその話題を避けて、彼女の心の内を探った。
いつもの可愛いらしい口調に、やっぱりヤキモチなんか妬かないか・・・と落胆したのは、つい先日。




さて、キョーコはどこにいったのか。
・・・仕事?
・・・買い物?
・・・それとも、琴南さんと?


いやいや、「今日」・「この時間」・「我が家」に戻ってくると伝えた俺を、彼女がないがしろにするとは思えない。
想いの重さが等しくなくても、愛する妻は自分のことを一番に想ってくれている。
だから、すぐに帰ってきてくれるだろう。








一息つこうと、エアコンのリモコンに手を掛けたとき、歯車が回りだした。
今では誰とでもつながる携帯から流れたコール音は、キョーコ専用のもの。










「キョーコ!!」
「もしもし、最上です」
「最上って・・・・・・・・・・・?
キョーコ、今どこ?どうして家にいないの?」
「敦賀さん、お久し振りです。
お元気そうで何よりです」
「どちらも、懐かしい呼び方だね。
でも、そう呼ぶなら君も敦賀になるんじゃない?そんなことはともかく、どこにいるの?」

淡々と答える彼女に、一抹の不安を覚える。
少しノイズが入るのは、何故。
少し声が遠いのは、何故。
不安は焦りとなって、キョーコを攻め立てる。

「いえ、私は先程から最上キョーコですよ。
そして、今はアメリカにいます」

さらり、と言われた、一言、一言が衝撃的で、脳内でうまく変換出来ない。
ドウイウ、コトダロウ。

「え?なに??
どうしてアメリカに?俺もう、日本に帰ってきてるよ?」
「離婚届けを出しに。
敦賀さんの居場所には興味ありません。他人ですから。では、お元気で」
「ちょ、ちょっと、待って!お願い!!」





トーン音だけが、こだまする。
虚しく俺以外誰もいない部屋に響くこの音は・・・

電話が切れた音なのか。

それとも・・・・

俺と彼女の・・・・・・・・・・・
俺の精神の・・・・・・・・・・・








まさか、醜聞のすぐあとに、3年前の俺の汚点を手に渡米していただなんて・・・
彼女の行動力には脱帽し、本気で3年前の自分をブチのめしたくなった。




























しかし・・・・



この状況に思わず、微笑んでしまう俺はどうしようもく病んでいるのだろう。
キョーコがこんな行動をするほど、怒ってくれた。
それだけで、心が躍る。
やはり自分を殺せるのはキョーコだけだと改めて認識する。


3年前、結婚の条件に出せれたのは、俺の署名済みの離婚届。
もう、今回使ってしまったのであれば・・・・・
次の会う時には、もうそれは存在すらしない。













離れたのであれば、また捕まえれば良い。
最愛の彼女がいなければ、夜は明けない。
最愛の彼女がいなければ、昼も訪れない。
俺の世界は、真っ暗で何もなくなってしまう。











世界を、動かそう。

愛する妻が待っているであろう地に、踵を返した。


















******
<sei様の素敵設定>

キョーコから出された結婚の条件:アメリカ流に契約書(離婚時には慰謝料なしにするとか、財産分与なしにするとか)を交わすことと、すべて記入した離婚届けをお互いに預けること。

蓮さんは、幸せだったので、これをころっと忘れてました。








このお話に出会った時に・・・
「キョコさん一回使っちゃえば・・・良いんじゃない?(´∀`)」
「そんで蓮さんもっかい捕まえれば良いよヽ(゜▽、゜)ノ」
・・・と、爛れた脳ミソで思ってしまったのです。




素敵プロローグ、活かしきれてるか不安ですが・・・(;´▽`A``
大幅に加筆させて頂いたので、可愛い能天気な蓮さんはちょこっとだけでしたね。
最後はいつもの如く、あとは、絡めとるだけ!!のイっちゃてる蓮さんでした。。