少し小さめのソファで隣同士で座るこの体勢は、なんとも気恥ずかしくなってしまうが、文句ばかりを言っても仕方がないことだと、無理やりキョーコは自分を納得させる。

ずり上がった裾を必死に引き伸ばしながら、乞われた項目について目を通すが・・・・

気持ちが大きく落ち込む内容だった。

どんよりとした気分を隠すことなく横目でスキンシップ過剰な先輩俳優をちらりと見ると。

切れ長で艶やかな瞳に何かしらの期待を含んで、大人しく待っている。

待て!を忠実に守って、ご褒美をおねだりしているカイン丸が後ろに見えて、キョーコはひとつ溜息をついた。


「どうしたの?」


案の定、溜息は間近にいる蓮にも伝わるが、原因が自分だとは微塵も思っていないようだった。

女は度胸!と、銀縁の眼鏡の位置を直して、気を引き締める。


「・・・なんでもありませんよ」

「そう?辛いなら今度にする」

「いえ、研修リポートを社長さんに出さなければいけないので・・・・やりましょう」

「うん、お願いするね」


言いながら、蓮は腰をずらしてキョーコに寄り添う。

ぴったりとくっつく、下半身。

ストッキング越しでも感じ取ってしまう蓮の体温とスラックスの生地の柔らかさに身体がびくりと慄いて、先程固めた決意を無残に散らす。

ごくりと息を飲んでしまう気配を、蓮は感じているはずなのに、何事もないかのように平然と研修の続きを促した。


「ほら、最上さん・・・・始めて」

「は、ぃ」


耳に掛かる吐息に何かが疼き始めたのを感じながら、その正体を知らない無垢なキョーコは言葉に従ってしまう。


「せ、セクシャルハラスメントなのですが」

「はい、先生」

「どういう意味かはご存知ですか?」

「・・・・うん」


研修資料の端を弄りながらテーブルに視線を向けるキョーコに、ほんのりと色付く彼女の耳に触れるかどうかを思案する蓮。

触ってしまって時の反応を想像しては、拒絶された時のダメージに立ち直れるかわからないから・・・と差し出しそうになる手をぐっと堪える。


収まりの良い場所を探そうと、ぴったり寄り添う足を少しずらすと、ほんの少しずり上がる薄いピンクのミニスカート。

不埒な行為はわかっているはずなのに、時折身体をふるりと震わせるだけで、明確な拒絶をしてこないキョーコに蓮の薄暗い劣情が煽られる。


「最上さんは、どういう意味か知ってる?」

「も、もちろんです。相手に性的な嫌がらせをすること、です」

「そう、だね」

「だ!だから!!」


いきなり顔を横に向けたキョーコと視線が絡まった。

真っ赤な顔に、銀縁眼鏡越しの潤んだ瞳。

きっとこちらを睨むその表情に、押さえ込むべきはずの全ての感情が煽られ、男の本能が疼き出す。

その感情の意味を十二分に理解している蓮は、煽られ、流されることを止めなかった。


「だから、なに?」


絡ませた視線が外れないように、キョーコに問う。

言いたいことなんて、わかりきっている筈なのに。


「こ、こういう体勢や!」

「うん」

「触ってくる事なんかが!」

「うん」

「せ、せくはらなんで、す」


最初の威勢はどこかに消えて、身体をすぼめて必死に蓮との距離を置くキョーコ。

悲しいかな、ソファにいる限り蓮のテリトリーから抜け出せないことを思いつかない。


「ふぅん」

「・・・・!」


明確な拒絶である筈の言葉は、劣情に流される蓮には僅かばかりのストッパーにもなりはしない。

変わりに先程止めた欲望を解放し、赤く染まった耳に触れる。

くにくにと軟骨を弄べば、小刻みに震える少女。

薄く目開いた瞳に、彼女が自分と同じ種類の疼き抱えていることを感じ取った蓮は乾いた下唇を舐め、弧を描く。


「や、やめて下さいって・・・・」

「そう?愛情表現だよ」

「ち、が・・・・ッ」


会話の中で、迫った端正な顔が、首筋にうずまり・・・・ちゅぅっと細い首を吸い上げる。

頬に掛かるさらさらの髪の毛、首に掛かる吐息、押し付けられた厚めの唇に、キョーコの身体の疼きが増していく。

思わず縋ってしまうのは、こんな状況を作り出した蓮のシャツで、その手も小刻みに震えていた。


綺麗に色づいた首をぺろりと舐め上げて、震える少女と視線を絡ませる。

再度、耳の軟骨を触り、空いたもう片方の手で、瑞々しい太ももを撫で上げる。


「愛情、表現、だよ」

「・・・・・知りま、せん」

「だって、こんなことするの最上さんだけだし」

「・・・・・嘘です。訴えたら、負けますよ?」


震える声で何を言っても無駄だとわかっているだろうに、悪態をつく少女が愛おしくてしょうがない。

そして、自ら進んで墓穴を掘るキョーコに申し訳ないと思いながらも、逃げられないよう徹底的に追い詰める。


「ふぅん、最上さんは俺を犯罪者にしたいんだ?」

「そんなこと、ない、です」

「そう?君だけだって言ってるのに、信じてくれないし」

「ふ・・・ぁッ・・・」

「身体は分かってくれてるみたいだけど」


身体だけじゃ寂しいよねと帝王の如く微笑む蓮に、キョーコの疼きが成長をみせる。

蓮は太ももを撫でる手に明確な意思を乗せ、ストッキングと上昇してきた体温をこねくり回しながら、吸い付くような触感を楽しんだ。


「ねぇ?最上さん」

「は、ぃ・・・」

「さっきの愛情表現の意味教えてあげようか?」

「いみ・・・・?」

「そう、意味」


潤んだ瞳で教えてと乞われ、キョーコの眼鏡を外し、自分が掛ける。

なにも付けていない顔の方が可愛いものだと、散々煽られた事実を忘れて、彼女の頬を撫で上げる。

その手にそっと頬を寄せてきた予想もしないキョーコの行動に、更に調子に乗ってしまう自分を蓮は押さえつけられなかった。


「・・・・少しの間、俺が先生、ね?」

「はぃ・・・・」


眼鏡の奥は欲望に濡れていることを、経験のなさから気付かないキョーコ。

その無垢な身体にどう劣情を叩き込もうかと考えながら、ほくそ笑み、手を差し出させる。

素直に差し出されてその手を取って、意味を身体で伝えるべく・・・・身を屈めた。













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ねっちこい蓮さんの仕上がってます。(いつもに比べて