まだまだ月が上りきる前の、高い、高い、空。

渦を巻くような雲は、3日前と同じように月を取り巻く。

この3日で更に秋めいた空気。




孤独も・・・

不安も・・・

寂しさも・・・

何度となく、心の中に湧き上がっては、消えていく。




ひとりで取り残されてしまったのではないかと思うほどに、堕ちる気持ちを救うのは・・・・

窮屈な中で愛を交わした彼の、温もりと。

それが現実であったという証明の腹部に残る彼の、しるし。










**





東京の香りは少し淀んでいるが、それでも帰ってきたのだとキョーコは安堵の溜息を漏らす。

森の香りも、湖の香りも、とても魅力的で素晴らしいものだったけれど、彼との距離が遠過ぎた。


監督に交渉に交渉を重ね、予定よりも半日早い帰宅となった今回のロケ。

たかが、半日。

されど、半日。

逢えない夜が一晩減った。

それだけで、心が浮き立って空をも飛んでいけそうになる自分の単純さに思わず笑ってしまう。


「蓮さん、ビックリしたかしら・・・・」


呟く一言すら、幸せに染まっているような感覚にに囚われる。

あちらの駅を出る時に、東京駅に到着する時間をメールで伝えた。

すぐに来た返信が嬉しくて、顔の緩みがとまらなかった。



迷路のような勝手知ったる駅構内を、すいすいと目的の改札口へと進んでいく。

いつもの待ち合わせ場所に向かう為に八重洲口を通過する。

改札の反応すら、いつものそれより遅く感じてもどかしい感情がキョーコを襲う。


少し歩いたその先に、明かりがまばらに付いたオフィスビルに挟まれた、二車線の道路。

停車している見慣れた車が、目の中に飛び込んだ瞬間、嬉しさにキョーコの心が震えた。

浮き立つ心を押さえつけ、逢えなかった時間と、これからの時間の幸せを、噛み締めるように、ゆっくりとじっくりと、歩を進める。

あと数歩、というところで、蓮に気付かれて、キョーコの中に芽生えていた、少し驚かしてやろう・・・なんて魂胆は消え失せてしまった。






最愛の人の蕩ける笑みは、それだけで最強。






頬に血が昇っていく感覚と、心臓がきゅぅとなる感覚にキョーコの足元がぐらついた。

それをぐっと堪えたのは、少しだけある蓮への対抗心。

求める心は常に、平等でいたいのに・・・・

どうしても自分のほうが偏っているいることを、少しでも表に出したくなくて生まれた、ほんの少しだけある気持ち。

それでも求めてしまう心は、止めることなど出来ないけれど。


「お帰り、キョーコ」

「・・・・ただいま、です。蓮さん」


いつものシートに腰掛けて、視線を絡ませて、指を絡ませて。

やっぱりどうしても小声になる声に、二人でくすりと笑い合う。


「俺のしるし・・・消えた?」

「まさか!隠すの大変でした!!」


もう!っとあの時の自分を棚上げして、ぷりぷりと怒るキョーコに蓮は苦笑を禁じえない。

その表情に一層キョーコが反応することなんて、分かりきっているのに。

日常が返ってきた喜びが大きすぎて自制が効くことなく、キョーコをからかう。


「そう?大変だったね」

「もー!!蓮さん!!」

「まぁまぁ。俺も怒られたし、一緒だよ」

「・・・怒られた?」

「そう、社さんに」


そう告げた時の、キョーコの顔といったら・・・・

一気に蒼白になったかと思いきや、次の瞬間は真っ赤になって、あうあうあと言葉にならない言葉を紡ぎだす。

ぷぷっと蓮が笑うと、キッと潤んだ瞳で睨まれた。


「大丈夫だよ」

「・・・・?」

「車の中で、シちゃったことはバレてないから」


多分・・・・とは心の中で付け加える。


「!!!」

「ふふ。あの日、どうしても社さん乗せたくなくて、タクシーで移動してもらったら・・・怒られた」

「な、な、な・・・!」

「ん?」

「なんてことするんですかー!!?」


きぃぃ!!と怒る顔も可愛いなと、思うのはやっぱりなんとかの欲目からなのだろう。

それでも、可愛いから仕方ない。

久し振りとは言い難いが、やっぱり久し振りに触れ合うじゃれあいはなんとも心地良い。


「大丈夫だよ。もういつも通りだから」

「そういう問題じゃないんです!」

「そう?」

「もぅ!!社さんに次に会う時、どんな顔すれば良いんですか!?」

「いつもと同じで良いじゃない?可愛いよ」


いつの間にか、すーぅと滑り出した車体は、帰るべき場所に向かって走り出す。


「そういう問題じゃ、ありません!」


もーっと膨れるキョーコを楽しみながら、向かう先は・・・・二人の自宅。

一人でいることに耐えられなかった空間に、二人で帰る幸せに、蓮は心を満たされる。

まるで最初からぽっかりとあいた隙間なんてなかったかのように。













「ねぇ、キョーコ」

「はい?」

「帰ったら、お月様の御伽噺をして?」

「どうしたんですか?急に」

「月が、綺麗だから、ね?」

「良いですけど・・・ちゃんと聞いてて下さいね?」

「もちろんですよ、お姫様」














秋の風は誰の肌にも、優しく季節の変わり目を知らせて。

少しだけ欠けた月は高く昇り、太陽の光を穏やかに反射させながら、世界に降り注ぐ。















END゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚










******

最後が、ふたりの・・・**みたいになっちゃった。。

なんて引き出しが少ないんでしょう!!←


キョコさんとおにいちゃんの話は、小ネタ扱いのためおまけ(●´ω`●)




どーでも良いけど、明日は愛する「水曜どうでしょう」の新作デーブイデーの発売日ww←

明後日でしたー!!でも明日の0時にはローソンに乗り込むもんねー!!←←