柔らかな生地の感触と、慣れない空気。

覚えのある香りと温もりが身体中を満たす心地良さが、意識の覚醒を促す。


「・・・・ん・・・・」


薄目を開けて確認したのは、間近にある先輩俳優の端正な顔立ち。

力強い意志の篭る瞳は閉じられて、まるで彫刻のような硬質感が押し出されていた。

動かない思考は、心が思いつくままに、身体を動かす。


何故、布団の中、なのか。

何故、彼の腕の中、なのか。

何故、大き目のパジャマを着ているのか。


一体、今は、いつなのか。

そもそも、ここは、どこなのか。


考え答えを出さなければいけないはずなのに・・・

まるで魅入られた虜のように、キョーコの指が蓮の唇に触れる。

男性にしては少し肉厚の唇。

とてもとても柔らかで扇情的なそれを、なぞってはゆっくりと押し込んで、感触を確かめるように、何度も繰り返す。

行為をするにつれて、段々と思い出されるのは、寝てしまう前に行われた、研修内容。

それはひとつが引き金となって、記憶が連鎖的に思い出される。


「・・・・・・・・はれんち、だわ」


呟きは空気に溶ける・・・・はずだった。


「なにが?」


力強い輝きを灯した瞳と、まだまだ本格的な覚醒をする前のキョーコの視線が絡まる。

蓮は息を飲みこむキョーコを、そのタイミングで更に抱き込んだ。


「なにが、破廉恥?」

「つるがさんが、はれんちです」

「そう?あんな短いスカートなキョーコも充分に破廉恥だと思うよ」

「だって・・・・おしごと、ですもの」


舌がうまく回らないのだろう、いつも以上に幼く感じる口調に愛おしさが募って。

先程、欲望のままに行為を進めなくて良かった、と安堵する。


「俺としては、もう恋人にはして欲しくない格好だよ」

「・・・・・こい、びと・・・・」

「そう、恋人」

「・・・・・こ、い・・・・びと」

「うん」


繰り返される言葉が脳内を駆け巡っているのだろう。

ぼんやりとした瞳が、段々といつもの輝きを取り戻していく。


「つ、つ、敦賀さん!!!恋人って!!!恋人って!!!!」


がばっと跳ね起きようとする細い身体を、抱きこんで離れることを阻止する。

突っぱねようともがく腕を優しく静止しながら、やっぱりか、と苦笑する自分を止められない。

もうキョーコを手放す気は更々無くて、きちんと丸め込むか、きちんと理解してもらわなくてはならないのだが。


問題は・・・・

彼女が、どこまで覚えていて。

彼女が、どこまで認知しているか。


もちろんゼロからのスタートの場合もあるわけで、その時は丸め込む以外の選択肢などないだろう。

出来れば、きちんと理解してその上で、一緒にいてもらいたいな、と自分の願いを託しながら、キョーコに対して、理解しているところまでの確認を取る。


「キョーコは覚えてる?」

「・・・・キョーコって・・・・」


名前呼びを指摘されるが、そこはすっぱりと無視を決め込む。


「覚えてる?」

「なにを、ですか?」

「キスの、意味」


頬に差す色が赤みを帯びて、言葉にしなくても肯定を示しているようなものだった。

突っぱねようとしていた腕を引っ込めて、両手で唇を覆う姿は本当に可愛らしい。

思わずおでこにキスを送る。


「・・・・友情の、触れ合いですか?」

「え?」


覆った口元はそのままに、眉を八の字にさせてこちらを覗き込むキョーコ。


「おでこは、友情の意味だと・・・・教えてくださいました」


愛情というのはやっぱり戯れだったのだろうかと、キスの意味に思考を奪われた瞬間。

横にいた蓮がいきなり乗り上げてきた。

圧迫されて苦しいはずなのに、その重みがとてもとても愛おしく思える。


「君に送るキスは、全部、愛情」


うっとりと囁かれて、指を外された唇に、蓮自身のものが重なった。

柔らかく柔らかく、押しつけられる唇を、キョーコは受け入れる。


「・・・・私も、本気にしますよ」

「もちろん、そうして」

「・・・・でも、こいびとって・・・・」


違和感のある言葉が、しっくりこないのだろう。

尚も、不審げに言い募るキョーコを諭す。


「じゃぁ、キョーコ」

「はい」

「キスして、特別って言い合う関係はなんて言うのかな」

「・・・・・・」

「愛してる、とも言い合った」

「・・・・・・」


ぐるぐるぐるぐる思考を巡らすキョーコに、答えは二つだよ、とキスをして。


「恋人、もしくは、夫婦、だよね」

「!!ふう、ふ!!」


零れてしまうんじゃないかと思うくらい見開かれた瞳。

まんまるで綺麗な水晶のようなそれに、意味ありげに視線を送る。


「どっちが良い、かな?」


あうあうと言葉を紡げないキョーコに決断を迫る。

丸め込むよりも、追い込むほうが可哀相ではあるけれど。

きちんと自分で関係に名前を付けておかなければ、きっと彼女はまた歪曲してしまうだろうから。

だから、彼女に決めさせる。


「あ・・・あの・・・・」

「俺は夫婦でも、とっても嬉しいよ」

「あ・・・あの・・・・」

「ん?」


蓮は至極にこやかに、キョーコの顔を覗きこむ。

逃げられないし、誤魔化せない・・・・救いの無い状況に絶望を感じながらキョーコは意を決す。


「・・・・・・こいびと、でおねがいします」


なんて恥ずかしい言葉なんだろう。

キョーコは、まさか自分自身を表す言葉として、使う日がくるとは思いもしなかった。

顔から火が出る思いをしながらも、目の前にある端正な顔が、幸せに蕩けるように微笑んでいる。

それを見て、まぁ良かったっと感じてしまう単純な心に笑ってしまいそうになった。





関係にきちんと名前が付けられて。

お互いに送り合うキスはとても・・・・甘やかで蕩けてしまいそうな触れ合いだった。











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次回最終回!!と銘打ちたい。(予定は未定)



魂を削りながら、更新する理由はただ一つ!!

無性に書きたいパラレル話があるから( ´艸`)←

暗くてどーしょうもなくて、淡々と進んでいく、そんなパラレル!

需要はなさそうだけど、それが今の原動力(°∀°)b


だから、コンプラを頑張るの!