高速道路に乗ったと思ったらすぐに降りてしまった。
振動を一切感じさせない車体はキョーコの見慣れた風景を駆け抜ける。

「敦賀さん・・・・ここ・・・・」
「人口的だけど海は海だよ?」

それは、そうなんだけれど。
さざ波も砂浜も、人口的とは思えない。
そんなことはキョーコ自身も知っているのだけれど。
いかんせん、8のチャンネルのテレビ局に近すぎやしないだろうか?
そんな思いがたらりと背筋を伝う冷や汗と共に流れていった。

「大丈夫、意外と気付かれないもんだよ?」
「でも・・・・!!」
「大丈夫、大丈夫。皆自分たちのことに必死だから」
「そう、ですか?」
「そう、なんですよ」

横目でふふふ、と不敵に笑う蓮に悪い予感しかしないキョーコだったが、ハンドルを握っていない彼女はなにをどうこうする術はもちあわせていない。
しかし・・・・
この蓮の難解と言って良いほどの思考回路に振り回されて「ぞくぞくする感じ」が久々過ぎて泣きそうになったのもキョーコなのであった。

(やっぱり・・・・・大好き、なんだな・・・・)

すん、と鼻を吸うとツーンとしてしまう。
もう「なに」が「どう」と言っていられないくらいに心が攫われている。
そんな分かりきっていることをまざまざ突き付けてくる蓮に、キョーコは更に追い込まれていった。

「どうしたの?大丈夫?」
「も、勿論です!敦賀さんの身におこる危険について危機回避をどのようにするか考えておりましてですね!」
「いやいや、大丈夫だって言っただろう?」

必死になって弁解をするキョーコ笑っていなさめて。
シルバーの車体はさもすれば通り過ぎてしまうような小さな駐車場に滑り込んだ。
そこは人口的に作られた浜辺に繋がる唯一の場所。
やっぱりキョーコが想像したように、その場所には車の波が出来ているように所狭しと並んでいた。
この人たちが「敦賀 蓮」に気付いたら・・・・と、思うとさぁぁっとキョーコの顔から血の気が引いていったのは、彼の人気を肌で感じるものとしては当然のことだろう。

「だから、大丈夫だって。行くよ?」

無意識にぎゅぅっとシートベルトを握り込んでいた手を優しく叩いて、蓮はおざなりにキャップを被り外に出た。
いくら時間が遅いとはいえ街灯は付いているし、なにより人が多い。
そんなところに先輩だけで行かせてはならないと、キョーコは慌てて外に出ると、にっこりと笑う蓮と目があった。

「さぁ、行こうか」
「は、い」

車ががちゃりと音を立てたので、キョーコは自動的に施錠されたことに気がついた。
その時、宙に浮いた手を包み込んだのは・・・・・勿論、彼女の想い人のもの。

「つる、んん」
「流石にそれは言っちゃ駄目」

名前を呼ぼうとした唇を手を引いていないもう一方の指で塞がれて、悪戯っぽく注意をされた。
新しいおもちゃを遊ぶようにくにくにと唇を触られて、そのまま興味を失ったかのように離れていく指。
それをキョーコの唇は思わず追いかけそうになってしまった。
そのことに羞恥心を覚え頬を染めた彼女の輪郭を羽のように撫でて、蓮は再度歩みを進めるように促す。

「ほら、行こう」
「はい」

舗装された道ではあるがある程度近付かなければ顔もわからないような薄暗がり。
デッキ調の歩道の先には・・・・・
青白く輝く砂浜、穏やかに流れるさざ波の音。
そしてこの場所の象徴として映える、七色に輝く大きな橋。
何もかもが人口的に作られた入江には、当時の最高峰ともいえる技術を使って建造されたものがしっくりと合う。
計算され尽くして造られたそれらに、訪れた人々は皆一様に心奪われ、静寂にその身を落とす。
今しがた到着したばかりの蓮とキョーコもそれに倣い、人気の薄そうな入江の奥へと進んで行った。
その間に、二人に気づいた者はいなかった。









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勿論、イメージは有名な刑事さんが封鎖できなかった橋です。
こないだ行ったら0時過ぎて光ってなかったという残念な経緯を思い出しながら書きましたw
実際には県外ナンバーばっかで、更には ちゅっちゅしてる人たちに遠慮してあまり同行者以外の人に近付かないとってもよそよそしい感じに溢れてます。
だから芸能人には気付かないだろうな・・・・という勝手な思い込みを少し形を変えて蓮キョにしてみました(人´∀`).☆.。.:*・゚←どーでもいい