「あ!嵐!」
ワイドショーで流れた新曲のMV。
パパとママ、おーちゃんとにのちゃんと潤くんが黒い衣装を翻して踊ってる。
「わー!ママ、かっこいいー!」
家にいる時はママだけど、お仕事をしている時のママは本当にかっこ良くて困っちゃう。
「父さんの方がイケメてんだろ。あれ?そういえば父さんは?」
髪の毛をちゃんとセットして洗面所から戻ってきたお兄ちゃんが、ママからお弁当を受け取りながら言う。
「しょーちゃんは、取材があるってとっくに出かけました~。今日、俺も夕方まで仕事だから、留守番よろしくね?」
「じゃあ、夕飯は私が作ってあげる!ね、お兄ちゃんは何が食べたい?」
キッチンに使ったお皿を下げて、ママからお弁当を受け取った。
「俺、今日出かけるから飯いらねぇ」
「デートだったら、あんまり遅くまではダメだよ?ちゃんとお家まで送ってあげてね?」
「毎回同じこと言われなくても、わかってるっつーの」
お兄ちゃんは、またデートか……小さくため息をついて、お弁当をカバンにしまった。
いいもん。私は1人で家で嵐会するもん。
ファスナーにぶら下げた5色のチャームを指で弾いた。
「じゃあ、まりん。ちゃんと戸締りしてね?」
「もう、ママ!私だってもう子供じゃないんだから!戸締りくらい自分で確認するし!
あ、お兄ちゃん待って!」
ドアが開く音が聞こえて、慌てて玄関に急ぐ。
「2人とも気をつけてね。いってらっしゃい」
「「いってきまーす」」
ママに手を振って、お兄ちゃんと並んで駅に向かって歩き出した。
「お兄ちゃんと一緒に学校に行けるのも、あと少しかぁ……寂しくなるなぁ」
「なんだよ、急に」
「なんか急に寂しくなっちゃったんだもん」
「……別にそんな遠くに行くわけじゃないんだし、週末には帰るよ」
「……うん」
ずっと一緒だったのに、あと少しでお兄ちゃんは居なくなっちゃう。
「わ!やっべ!反対側電車きた!」
「え!うそ!」
「まりん、急げ!」
躊躇いもなく私の手を掴んで、お兄ちゃんが走り出す。
それが嬉しくて、ぎゅって力を入れて手を握り返した。