「あれ.......まーくん?」
昼休み、かずのクラスに行ったら、かずが驚いた顔をして寄ってきた。
かずのクラスまではなかなかの距離があるし、俺は部活もあるから同じ学校って言っても中学の時みたいにずっと一緒ってわけにはいかなくて、何だかちょっと不思議な感じ。
「なんとなく、かずとご飯食べようかなぁって思ってさ.......」
「ちょっと待ってて、弁当持ってくる」
かずはいつもなんにも聞かないけど、俺の顔を見たら俺が何を考えてるのかとか、いろいろ分かっちゃうみたいで.......だからって、何があったのかって聞いてくる訳でもないから、やっぱりかずといると安心しちゃうんだよね。
「まーくん、友達いないの?」
「そんなわけないだろ」
「わざわざ昼休みに俺んとこ来るから、友達出来なかったのかと思って」
「違うわ」
外廊下の隅に置いてあるベンチに並んで座って弁当を開いて、そんな会話をして笑い合う。
かずが『いい人』って言うんだからきっと、櫻井先輩はいい人なんだろうけど.......
「ちゅーって、挨拶かな」
俺の隣で、かずがぶっ!って吹き出した後にゲホゲホと咳き込んだ。
慌ててお茶を差し出して、かずの背中をトントン叩く。
「ちょっ.......強い。痛いよ、背中」
「あ、ごめん。あの.......色々ごめん」
あー、もう、これだからまーくんは.......ってぶちぶち呟いたかずが、俺を睨むように見上げた。
「ごめんって」
「アナタが突拍子もないこと言い出すのはいつもの事だからしかたないけどさ、もうちょっとこう、前後の状況とかさ、説明はないわけ?」
「うーん.......」
黙り込んだ俺にため息をついて、かずが俺の弁当から唐揚げを取って口に放り込んだ。
「あ!俺の唐揚げ!」
「普通、挨拶はほっぺたでしょ。口にするのは挨拶じゃないと思うし、もしそれが挨拶だって言うんなら、まーくんが狙われてるって事でしょ」
「狙われてるって.......」
「男?」
今度は俺が口の中の物を吹き出しそうになって咳き込んで、かずが俺の背中をトントン叩いた。
「オトコって.......」
「世の中にはいるでしょ、そういう人も。まーくん、顔だけはキレイだからさ」
「なんだよ!顔だけはって!」
「だって、まーくんはさ、中身はガッツリ男子でしょ?おバカだしさ。だけど、まーくんの顔だけ見て惚れちゃう男だっているかもしんないじゃん」
「顔だけかぁ.......」
ちくんと胸が痛んだのはなんでだろう。
「顔だけは嫌だなぁ.......」
ぽつりと呟いたら視界の隅で かずが小さく頷いた。
.......そっか.......
もしかしたら、櫻井先輩も『顔だけ』で選ばれてるみたいで嫌だったのかもしんない。
あんなにたくさんの女の子に囲まれてたって、きっと、みんな櫻井先輩の顔がカッコイイってだけで騒いでて.......
だから俺が『モテたら嬉しい』って言ったのが気に食わなかったのかもしんないし.......
でもだからって、人のことからかうみたいなのはよくないって思うけど!
もしかしてもしかしたら、モテすぎちゃって、キスするのなんて挨拶程度な感覚になってんのかな?
だとしたら、昨日の子も彼女じゃないのかな?
ほっとして口角が上がって、そんな自分にびっくりして『えぇ?!』って叫んで立ち上がりそうになった俺の膝の上に置かれてた弁当箱を かずがすごい速さでガシッと掴んだ。