弁当を助けたお礼って、今度は俺の弁当から卵焼きを持っていった かずが『これやる』って、自分の弁当からピーマンの炒め物と人参の甘く煮たやつを俺の弁当箱に放り込んだ。
「かず、また好き嫌いしてる~」
「まーくん、母さんの作ったやつ好きでしょ?」
「おばさんが作ったの、美味しいよ?」
「俺はいいの、毎日食べてるから」
かずはやっぱり、なんにも聞いてこない、けど.......
俺の中のモヤモヤがちょっとだけスッキリしたのは確かで。
だけど、なんで俺は昨日の人は彼女じゃないのかもって思ってほっとしたんだろ?
いやそりゃ、アレだよ。
櫻井先輩がモテすぎて感覚がなくなって、キスが挨拶とか言っちゃえる人で、だから俺にもそう言ったってことだからでしょ?
俺に言った言葉に、本当に特に深い意味はなかったって事だからでしょ?
え、でも、もしそうだったとしたら、櫻井先輩はたくさんの女の子とキスしてたりするってこと?
.......え.......それは、ちょっと.......ってゆーか、かなり嫌じゃない?
.......嫌って、なんで.......???
自分で自分の気持ちが分からなくて、はてなマークだけが増えていく。
「まーくん、またひとりで百面相してるけど」
「え?なに?」
「もー、考えたって仕方ないよ」
「.......え.......」
かずが呆れたように笑うから、俺、なんかやらかしちゃったのかなって心配になる。
「考えたって、答えなんて出ないよ。その人のこと好きか嫌いか、それだけでしょ?」
「それだけって.......」
どっちか選べ、って言われても困る。
まだ、先輩のことなんにも知らないのに。
昼休みもだいぶ時間が過ぎて、中庭に出てくる人が増えて目の前を何人もの人が通り過ぎる。
櫻井先輩の声が聞こえた気がして、思わず顔を上げた。
すぐ、分かるんだ。
だってほら、めっちゃ金髪だし、あの人。
友達と楽しそうに話している横顔を見ていたら、先輩がこっちを見たから慌てて視線を逸らした。
どきん
どきん
どきん
自分の胸の音がやけに大きく聞こえる。
青いラインの入った上履きが俺の目の前で止まった。
「二宮くんと相葉くんって友達なの?」
「はい。友達っていうか、幼なじみです。家が隣で、親もずっと仲良かったんで、生まれた時からずっと一緒です」
「へぇ.......仲良いんだな」
櫻井先輩とかずが話しているのを聞きながら黙々と箸を動かした。
朝のことを思い出したら、先輩の顔なんてまともに見れない。
ちらりと視線をあげたら、先輩とばっちり目が合って、慌ててまた弁当に視線を落とした。
「じゃ、またな」
くしゃって、先輩の手が俺の髪の毛を撫でてから少し離れたところで待っていた人たちのところへ走っていく。
「.......櫻井さん、だったんだ.......」
意外そうな声で かずが呟いて、持っていたペットボトルの蓋をきゅってしめた。
「悪い人じゃないと思うよ?さとちゃんとも仲良しだって言ってたし.......」
なんて答えたらいいのかわからなくて、残りのご飯を口いっぱいに放り込む。
「別に急いで答えを出さなくてもいいんじゃない?ちゃんと時間かけて、たくさん話してみたりして、さ.......」
俺は、もぐもぐと口を動かしながら かずの言葉にうんうんって何回も首を縦に振って頷いた。