ポンッ。


大きくて温かい何かが、私の頭の上に乗り


優しく撫ぜる感触───



先生、あのね。-image


斉藤先生の手。




先生は私の肩に手を置きながら


時折、両手で。


私の気が済むまで、何度も何度も頭を撫ぜてくれた。




それが、私の想いを受けた


斉藤先生の答え───






先生が私を抱きしめる事はなかった。


でも、頭を撫ぜる事で『生徒』として愛してくれている事を知った。


…それだけで、十分嬉しかった。






私は、行き場のなかった両手をほんの少し上げ


斉藤先生の背中。


背広をキュッと軽く掴むと、私だけ抱きしめる形になった。




一瞬でいい。


今は、私だけの先生でいて欲しい。




初めて男の人を抱きしめた私は


先生の胸に顔をもっと埋め


今にも泣き出しそうな顔を隠した───











大分、落ち着きを取り戻すと、今度は不安になった。


斉藤先生の行く手を阻み、公衆の面前で抱きしめた事。


先生、怒っているだろうな…


恐る恐る顔を上げた。




私「…斉藤先生」


久しぶりに顔を背けず、間近に見る先生は


笑顔だった───




私「写真、撮ってもいいですか?」


特に否定も肯定もしない先生の手が、頭から下ろされると


離れ難いこの場所を、私から離れ


先生を撮影する為、距離を作った。




“心が落ち着く”この場所を忘れたくない。




鞄からカメラを取り出し、先生に向けると


先生は私を見ず、後方ばかり気にしていた。




写真、駄目なんだ───





先生を抱きしめた上に写真もだなんて、都合良過ぎだった。


自分の想いだけ押し付けて、迷惑ばかり掛けて…


こんな事になるなら、先生を抱きしめなければよかった。




結果、後悔するなら


やらなければよかった───









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