<鵜殿のヨシ原>「新名神」で消滅も 見直し署名提出へ

毎日新聞 11月16日(土)15時0分配信


◇雅楽の管楽器「篳篥」の材料に欠かせず


 全国屈指のヨシ群落が広がる大阪府高槻市の淀川西岸「鵜殿(うどの)のヨシ原」が、新名神高速道路の高架橋建設工事により消滅しかねないとして、保全に取り組む市民団体が18日、計画の見直しを求めて約7万9000人分の署名簿を太田昭宏国土交通相に提出する。鵜殿のヨシは雅楽の管楽器「篳篥(ひちりき)」の材料に欠かせない。団体側は「これだけの署名が集まることは環境問題としてだけでなく、雅楽の伝承に対する市民の強い危機感の表れだ」と主張している。

【写真で見る】雅楽の管楽器「篳篥」。写真右端がヨシから作られた吹き口

 鵜殿のヨシ原は、平安時代の代表的な文学作品「土佐日記」にも登場する。鵜殿のヨシは茎が太く、それで作る篳篥の吹き口(リード)は、雅楽にふさわしい良質な音色を奏でると演奏家に評価されている。宮内庁の雅楽を演奏する専門機関「楽部」は今も、鵜殿から直接ヨシを買い付けている。

 しかし、1960年代以降、川底のしゅんせつ工事や上流のダム建設などで淀川の水位が低下、ヨシ原の乾燥が進行し、陸生植物に取って代わられるなどしたため、かつて約75ヘクタールあった生育面積が10%程度に減少した。

 今回、新名神の京都府八幡市-高槻市間(10.7キロ)は鵜殿のヨシ原をまたぐ形で高架橋の建設を計画。これまで採算性を理由に着工が凍結されていたが、昨年4月、国交省は事業を認可した。建設主体の西日本高速道路は2023年の完成を目指す。

 これに対して、地元で30年以上、ヨシの保全活動に取り組む「鵜殿ヨシ原研究所」の小山弘道さん(76)らは、高架橋建設に伴い、ヨシ原に水を供給している地下水などに影響が出ると主張。昨年、関西の雅楽演奏家とともに市民団体「SAVE THE 鵜殿ヨシ原」(大阪市)を結成し、署名活動を続けてきた。

 小山さんは「水路を設けるなど長い間かけてヨシ原を守ってきた。雅楽にとって取り返しのつかない事態にならないよう、建設を急ぐべきではない」と主張し、ルートの変更を求めている。

 西日本高速関西支社は、環境アセスメントの一環として植物学や地下水の専門家らによる検討会を開き、工事がヨシ原に及ぼす影響を調べている。同社は「ヨシの保全と建設との両立を目指す」と説明している。【五十嵐和大】