原田芳雄は 私の小学生から20代半ばまでの間、
いく度か マイヒーローだった。
父親ほどの年だが、子どもの自分が
あの声あの色香に くらくらしたものだった。
テリー伊藤がさっき
「画面を通して匂いのしてくる俳優は、
彼と松田優作とショーケンくらい」
と言ったがその通りだと思う。
いつも汗に混ざった香しい男の匂いがした。
好きというよりは、画面を超えてくる
その匂いと存在感にやられてたんだな。
8日前の舞台挨拶の豹変した姿は衝撃的で、
もうすぐ亡くなるのだなとすぐにわかった。
90歳かと思うほどの風貌。
気力で最期の仕事をやり終え、
人生の時計を一気に巻かれたようだった。
きっちり仕事を果たして男だな。と思った。
彼は俳優というよりは、役者であった。
60~80年の頃の邦画は、やたら暗く熱く 粘り気があって赤かった。
心地よいものではなかったが、人を惹きつける強い吸引力があった。
今の邦画を云々云うのではまったくない。
低迷期を抜け出して、気迫、センス、面白い
いい作品や人が沢山出てきてる。
ただ、子どもの時分に親しんだ
あの時代を体現する人物が
往ってゆくのはやはり寂しい。
原田芳雄って役者の男は逝ってしまったが、
私たちは映画を通して
いつでもあの声あの姿に会える。
たくさんの仕事をして 老いて死にゆくのは 美しい。
そんな風に思うようになった。
やっぱり 優作さんにも もっとたくさん作品を残して
よぼよぼの彼を見せてほしかった。
そんなことも 思った。