戻ってきたテソンはぎこちなくて。
目も合わせてくれない…。

あたしはそぉっと息を吐いて
「あのね」
と腰を上げた。
「あのね、今日はもう…」
とバックを取って

「もう…帰る…ね」

とだけ伝える、それで精一杯。

お店に入る時にはテソンが開けてくれたドアから一人外に出ると
風が冷たくて、カフェにカーディガンを置きっ放しな事に初めて気が付いた。

取りになんて戻れないって…。

駅まで走ろう…。
じっとしてたら絶対泣いちゃう。
日も傾いてきたから、すぐに暗くなるはず。
薄暗い夕闇に一人なんて本当に耐えられない~。
夕日がとても綺麗に見えるのは
涙が溢れてきてるせい。
視界がぼんやりしてるから夕日がいつもより大きく綺麗にみえる。


一つ目の角を曲がろうと少し速度と落とした途端
あたしの腕を強く握る手が。

触れられたところから暖かい体温が流れ込んでくる。
「ごめん」
と呟くテソンの声はいつもよりもかすれて聞こえる。
「なに??変なの~~~何に謝ってんの??わかんないよ~」
と笑い飛ばす…強気じゃないとダメだ
笑ってないとバレちゃうよ

泣いてるって。

「こっち見て」
と彼には珍しい強い口調で言うから。
一番の笑顔でテソンを見つめて笑ってあげよう。

「意味もなく謝ってもらっても嬉しくないよ、悪いことなんてしてないでしょ?」
「…ごめん」
「だから、嫌だってそういうの!」

あたしの言葉を聞いてテソンは寂しく笑って
置き忘れたカーディガンをそっとあたしの肩に掛けた。
そしてそのままあたしを抱き寄せる。
「ヤダよ」
と抵抗してもテソンの腕は強くあたしを抱きしめたままで
広い肩と厚い胸にあたしの身体がすっぽりとはまり込んでしまった。
テソンの匂いがする…。
心地のいい匂いと優しい感覚…とは裏腹に切なさがこみ上げてくる

なんだかうやむやにされてるみたいで辛い。

今までこらえていた涙あふれて
テソンのパーカーを濡らしていく。
着古したそのパーカーはやわらかく頬に当たり
あたしの涙全てを吸い取ってしまった。

「どうしても伝えたい言葉があったのに、言い出せなくてごめん」

というとテソンはあたしの髪をそっと撫でた。