やばい、やっぱ堅気の人じゃなかったんだ!
だって変だもん~銀髪で黒ブチメガネで
こんな眼力ある一般人なんて見たことない。

度胸決めて、まっすく見上げたら
背高いし、なんかかっこいいし。
なんかじゃない!すっごくかっこいいし。
それに今は・・・口の端を少し上げて

笑ってる??

「TOPのたぷさんはあの~何者?なのですか」
「あぁ~。TOPをタプって呼ぶの~つかお前何か勘違いしてる?」
「え~いやぁ、その~」
上着のすそをモジモジと掴んで引っ張ってるゆきに
彼は大きく一歩近づいて
鼻で軽く笑いながら。

「お前の様子見てたらわかるって、俺をやくざかなんかだと思ってるんだろ?」
と楽しそうに言う。

ゆきは黙って首を振る。
顔の輪郭に沿って切りそろえられた髪が
サラサラと揺れている。
両手をそろえてうつむいている彼女は
小動物のようにも見える。

彼はもう一歩彼女に近づき
揺れている髪をそっとすくい取り
もう一方の手で彼女の顎を軽く引き上げた。

鋭いけど綺麗な目がゆきを確認するように見つめている。
始めは怖いと思ったけど
彼の瞳の中には、少しの陰りも見当たらなくいから
悪い人じゃないって思った。
本当は悪い人なんだとしても
信じたいと・・・。
そう思わせる人

彼女の髪を弄んでいた手はそのまま肩へと下りて。
彼の瞳をただじっと見つめてぼーっとしてたゆきには
次の瞬間に、何が起きたのか、わかっていなかった。
彼のくちびるが重なって
肩を両手で強く抱かれて。
始めて感覚が湧き上がってくる。

肩に置かれた彼の手の暖かさや
柔らかいくちびるの甘さ
そしてかすかに香る彼の香水の清々しさ
その感覚にすべてを委ねてしまいたくなった途端
「今日はここまでっ」
と彼はあっさりと身を引く。

戸惑う表情のゆきの頬に
軽くキスをして
「言ったろ?お前の事気に入ったって」

彼は車通りの多い道でタクシーを拾い
ゆきを乗せる。
「これ、俺の連絡先だから、逢いたくなったら連絡する事・・・な?」
と名刺を渡して。
タクシーの運転手には支払いをして、ちゃんと
「この子をよろしく~」
って
あまりにもあっけなくて

夢かもしれない。

酔ってたし
夜の街に消えてゆく彼の後姿を思い出してみても。
なんだか現実の人だとは思えなくて。
手元にある名刺は消えてなくなったりはしてないけど。
わけがわかんないし考えがまとまんないから。
今日はこのままフワフワした気持ちで
眠ってしまおう。

朝になれば忘れているはず。
今夜、起こったことは何もかも全部。