大きな白い箱が部屋の真ん中に置いてあって。
【開けるな危険!】
って落書きみたいな殴り書きされてて。
開けるなって言われたらさ、
それって普通、開けて見ろって事だよね~♪

と手を伸ばす。
びっくり箱かも知れないから
そぉ~っとゆっくり
覗いてみるけど飛び出しそうな気配は無くて。
思い切ってふたを開けると
甘くていい匂いがする。

何個か茶色い紙袋が入ってて
一つあけたらベビーカステラだった。
ひとつほお張って
次に取り掛かる。
これは~~~、今川焼き
これは持って帰ろう。
と箱から出して小脇に抱えて。
もう一つの袋には鯛焼き。
これは…もういいや。

思い出すと苦しくなっちゃうし~。
ダメダメ!考えちゃダメ~!
さて最後の袋は…。
焼きいも、かぁ。

この中なら今川焼きだなっ!
よしっこれだけ貰っていこう~っと。

元通りにふたを閉めて。

部屋の出口を探すけど、ドアが見当たらない。
あれ?そもそも、あたしはいったいどこから入ってきたんだろ?
気が付いたらこの部屋にいた…んだよね。
出口ってあったかな?
うつむいて悩んでたら
影が見えた。
あたしの足元から箱にまでずーっと伸びる長い影…。
背後に気配は無いのに誰かが居るみたいだ
「さっきまで誰もいなかったのに?」
口からついつい出てしまった。
「俺、居たって…。カオリが見ようとしなかっただけだろ?」
って低い声がすく後ろから聞こえてきてそれにびっくりしちゃって
体がビクってなったよ。
声だけじゃまだ分らない
そのハズなのに『タプ』だって心臓が跳ねてる。
「ずーっと側に居たのに…」
と悔しそうに彼が言いながらカオリの肩に手を置くと。
足りなかった感覚が戻ってくる。
彼の気配を背後に感じて、置かれた手を暖かいと思える。
「何抱えてんの?」
彼女の肩にあごを乗せたタプが
息が耳に掛かる距離で無邪気につぶやいてて
くすぐったくてダメだ。

「何でもないよ~」
って緊張のあまり一本調子に答えちゃったら。
「じゃあ見せて」
って…。
左手であたしの体を軽く抱きしめながら
右手で器用に袋を取り上げて
あたしの目の前で袋を開けて後ろから覗き込んでる。
今日はフードは被ってなくてはっきり横顔が見える。
前髪はこの前の時と同じサラサラなんだけど
後ろが少しハネてる。
それが彼を無防備にみせていて。
気がついたらハネた髪を撫で付けてた…。

袋の中身に気を取られていても
「ん?何?」
ってあたしの目を見つめ、尋ねる。
「ん~?触りたくなっただけ」
ハネてたからって、理由にしたくなかった。
触れたかったの、それだけ。

袋の中を指して
「これって何?」
と聞いてくる。
「今川焼だよ、これにもあんこ入ってるの」
「そっか、じゃあ次はこれね」
「次?」
「そう、次会う時はコレ~」
って微笑んでる。
この前、鯛焼き食べてた時みたいな無邪気な顔で、にっこにこなまま、タコの口して近づいて…。
あっけに取られてるカオリのほっぺに音付きのキスをする。

「じゃ明日電話するから」
と彼女の頬に感触を残したまま、彼は勝手に消えてしまった。