タクシーを乗り付けて店に入ると
カウンターの一番奥に座っている彼が見えた。
胸元まで上げた手を振りながらにこにこしている。
待たせ過ぎたのかほんのり顔が赤くて
「飲みすぎてない?」
と心配になった。
「そんなに飲んでないけど、今日は日本酒だから」
と言ってあたしの椅子を引いてくれる。
小さい気遣いができる人。

「なにから食べる???あ、でもまずは乾杯だね」
と大将に合図をしてお猪口をもらい
「あいかも冷酒でいいでしょ?」
と注いでくれる。
「うん、でもあんまり飲みすぎると酔っちゃうよ?」
「いいよ~酔っても。あいか酔うとアノ時の声大きくなるでしょ?あれ好き」
「ちょっ、何いってんの!!!」
「ん~~~~」

頬杖をついてあたしをじーっと見つめながら
「あいかの好きな、うにを、2つ、お願いします。」
とわざと丁寧に注文して。
「1つは俺のだからね~」
と念を押される。
けどそれは冗談だってすぐにわかるよ。
もうお腹いっぱいの顔…でしょ?
「食べれるの???」
「食べれないw」
なんだろこの会話www
「俺はあいかが食べてるの見てる」
「っ!そんなの恥ずかしくて、食べれないじゃん」
「そうなの?どうして?」
「どうしてもなの~、もぉジヨンは飲んでてください」
「あいかがこれ空けたらね」
と冷酒を1本渡されて

本気で酔わせる気なんだと…そう思った。


うには甘くて深い海の味がした、その後を海苔の香りが追いかけてくる。
口の中でほどける酢飯のちょうどいい酸っぱさが
よりうにの甘さを引き立てている。
美味しいものを食べるとすごく幸せな気持ちにれる。

あたしも本気で飲んで食べてやるんだから!

「中トロにサーモン、あわびもお願いします」
と元気に注文して。
よく食べてよく飲んでるあたしをジヨンは楽しそうに見つめている。

「もうこれ以上飲んじゃダメだよ」
そう低く抑えた声で囁かれ
手を引かれてその店を出る。
歩き出すと軽く足がもつれて
それが可笑しくて笑ってしまう。
彼はそんなあたしの腰に手を回し、支えながら車に乗せた。

この匂い、タクシーじゃないなぁ~
ふかふかのシートに体を沈めて
「眠たくなっちゃった」
と彼の肩に頭を預ける。
彼の手が頬にかかった前髪を優しく耳にかけてくれて
それがくすぐったくてふふふと笑う。

『まわりの事、これからの事なんて関係ない
今、この瞬間が幸せであればそれだけでいい』と思える。
…今までのあたしが居る。



でもね、もう限界。
これ以上は…。