【8 原稿、あがる?】
 
 あれからフラフラになりながら家に帰り、お風呂にだけ入って寝ちゃった。
 心配性の王子が寄ってくれたのか、リビングで声がしてたけど、起き上がる気
 力もあたしにはなかった。
 はーっ。
 本当にハードな一日だった。
 今日の出来事をゆっくりと思い出す。
 赤松円馬。
 あたしとケンカになった赤毛の不良!
 思い出しただけでも腹がたつ!
 でも、あたしの情報はぜんぶ本当りだった。
 情報収集能力だけはすごいなぁ。
 桃川ひまりちゃん。
 本が大好きで、はじめてこの学校でできたあたしの友達。
 ひまりちゃんに喜んでもらえるような面白い雑誌を是絶対に作らなくっちゃ。
 銀野しおりちゃん。
 はじめて仲間になってくれた編集部員。
 新聞部をスカウトされるくらい占いが得意で、ミステリアスな女の子。
 どうして仲間になってくれたのか、今度聞いてみよう。
 青木トウマ先輩。
 女の子が大好きで、ダントツの破壊力を持つ先輩。
 でも突然の依頼にも関わらず、依頼を引き受けてくれたんだもん。感謝しなきゃだよね。
 波乱に満ちた転校初日。
 大騒ぎしたけど、けっこう収穫あったんじゃない?
 明日からは先輩のところに毎日通って、原稿の催促をしないと。
 そのつど、あの長い話を聞かされるのかと思うと、ぞっとするけど。
 白石ゆの、頑張ります!
 翌日。
 放課後になるのを待って、先輩のいる教室へ向かおうと考えていると、突然の廊下にいた男子から爆弾発言。
「白石、青木トウマ先輩がきてるぞ」
 ひーっ! トウマ先輩!!!
「なんで青の王子のトウマ様がわざわざいらっしゃるのぉー!!!!!!」
「まさか白石さんに告白!? いやあああああああああああああああ!」
 女の子のカナキリ声に、あたしの胃は痛む。
 転校したばっかりだし、あたしは目立たずひっそり過ごしたいんですってばっ!!
「トウマ先輩に直接来てくださるなんて申し訳ないです! 教室に来るのは勘弁してくださいっ」
 先輩の腕をひっぱり、廊下の片隅へ引っ張り込む。
「相変わらず情熱的だなぁ、子猫ちゃんは」
「用件はなんですか? まさかやっぱり描かないとかいわないでくださいね」
「できたよ」
「できたって?」
 また新たな小鳥ちゃんだか、子猫ちゃんができたのだろうか。
「僕が君にできたっていったら原稿に決まってるじゃーん♪」
「ええええっ!?」
「これは誰にも言ってないんだけどぉ、ぼくの人生プラン的には作家しながらアイドルもやろっかなぁって思っててね」
「………」
 はあ。
「ちょっと書いてみたら、ノリにのちゃって。ぼくってやっぱり天才なんだなと、自分の才能が心の底から恐ろしくなったよ」
「せんぱい!!!」
 あたしは感激して先輩の手を握りしめ、ブンブンと振り回した。
「いたっ、イタタ! 乱暴はダメだよ。ゆのちゃん」
「今まで先輩のことは女たらしでいつかそれで身を滅ぼす変態としか思っていませんでしたが、今は心の底から尊敬しています。今日から先生と呼ばせてください!」
「先生か、なんか禁断の響きで悪くないねぇーーってゆのちゃん?」
 トウマ先輩は驚いたようにあたしを見る。
「ありがとうございます。本当にありがとうございました!」
 自分でい依頼してはじめて描いてもらえた原稿。
 神様から生まれたての大切な赤ちゃんを預けてもらったみたい。
 お母さんってこんな気持ちなのかな? こんなに嬉しい気持ちなのかな。
 腕の中に抱きしめた封筒を壊さないように、でも強く抱きしめる。
「ま。そんなに感動されちゃ、悪い気はしなけどね」
「ありがとうございました! あたしこれから家に帰ってこの宝物を読ませて頂きます。明日感想をお伝えします!」
 勢いよく頭を下げ、勢いよくきびすを返した。
 やっぱりあたし持ってるのかも。
 え? なに持ってるのかって!?
 そりゃ、名編集者の素質でしょー!
 先輩からもらった原稿を手に、教室から飛び出したあたしが向かったのは、王子に教えてもらった秘密基地。
 はじめてもらった原稿だもん。誰にも邪魔されず、じっくり読みたいじゃない?
 ワクワク胸を弾ませながら、原稿を読み出したあたしだけど。
 思わず手がワナワナと震えだす。
「うぎゃああああああ。助けてええええええええっ!」
 大混乱中のあたしは、もう叫ばずにはいられなかった!
「そんな大声出したら、事件だと思われて警察に通報されるだろうが!」
 突然あらわれた王子の姿だけでもビックリだけど、いきなりゲンコツを落とされて、あたしは頭をさすった。
「王子!? どっからわいてきたの?」
「人をボウフラみたいにいうな! トウマ先輩か直々に下級生の教室まで出向いて、オマエにプレゼントを渡したって大騒ぎになってるぞ。もし受け取ったのが原稿だったら、集中して読むためにここに来てるかと持ったら案の定だ」
 王子の言葉にクラッとめまいがする。
 だから! あたしはこれ以上目立ちたくないのにっ。
 手にした原稿の束を見て、王子は露骨に顔をしかめる。
「なに? 本当にトウマ先輩から原稿もらいました、と」
 手にした原稿の束を見て、王子は露骨に顔をしかめる。
「俺の忠告も聞かずに」
「うっ」
「ぜ・っ・た・い・にやめとけ、って言ったよな」
「ぐぐっ」
「俺の忠告で間違ってたことって今までであったっけ?」
「それはーーっ」
 確かに今までで王子の忠告が間違っていたことってない。
「理由を教えてくれればあたしだって、特攻しなかったわよっ」
 あのチャライ性格が問題だと思ってたけど、こりゃもっと危険な匂いがしてきたよ。
「忠告聞かなかった罰だ」
 べーっと舌を出される。
 にくらしー!
 子供の頃から何度見てきたかっ。
 でも学校ではこんな子供みたいに小憎らしいところなんて、まったく見せてないんだから、つくづく鉄仮面だわ。
「で? どうしたんだよ」
「8Pでお願いしたのに、40Pもあるっておかしくない!?」
 気分が乗ったからってページ数も増やされたみたい。
 もう最悪! 全部で16Pの雑誌つもりなのに、それより多いってどうゆうこと!?
 でも一番困っているのはコレ。
「コレは叫んじゃったこととは関係ないけど、内容
 もちょっと……というか根本的にこれでいいの!?って感じだし」
 もらったマンガはもはやマンガとはいえず、謎かけみたいなポエムだった。
「1ページに先輩の似顔絵が描いてあって、イメージのイラストが入りつつ、それがただしゃべってるだけなんだよ!『いとしい僕の花園の乙女たち。君たちを抱き枕にして眠れたら、僕はどんなに幸せかわからない』とか! しかも君じゃなくて、君たちって!」
 目を通し終わった王子は大きくため息をつく。
「ーートウマ先輩のファンは卒倒しそうなほど喜ぶかも知れないけどな。オマエ、雑誌の大枠って説明した?」
「大枠?」
 きょとんとするあたしに、王子さらに深くため息をつく。
「テーマ。骨格だよ」
 こっかく?
 オウム返しのように繰り返すあたし。
「ゆのが作りたい雑誌はどんな雑誌で、どんな原稿が欲しいかっていうのを先に伝えたのかって聞いてるんだよ」
 あ!
 王子のいうとおり先輩に押し切られて、『誰に向けてどんな内容のものを希望している』って具体的な話まで、できなかった、
「ま。それをいったからってあのトウマ先輩が「はい了解です」って上げてくることはほぼ0パーセントだとしてもだ。先にきちんと伝えきれなかったのは、オマエのミスだ」
 王子のいうことはもっともだ。
 あたし甘かった。早く結果が欲しくて、大事なところをすっ飛ばしちゃったんだ。
「とにかくすぐに学校戻って先輩に相談してみる」
「正直難しいと思うぞ。青木先輩は天上天下唯我独尊だから」
 王子の言葉に唇をかみ締めながら、あたしはもう一度トウマ先輩のもとへ向かったのだったーー。
 
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