これが本当の第一回編集会議!

「新メンバーも加わったことだし。改めて第一回編集会議をおこないますっ」

 とりあえずあたしと王子がいつものクセで隣同士の席。その向かえにしおりちゃん、エンマが座る。
「さっきの台割には、こんなの読みたい!みたいな勢いで妄想を書きまくっちゃって、本当にすみませんでした!」
 深々と頭を下げてから、あたしは全員を見回す。
「今回は、編集部員それぞれがやりたいこととか、やれることとか、興味があることを話しあうところからはじめてみました」
「それぞれに?」
「うん。せっかくだからまずはそれぞれみんなの『やってみたい』とか『面白そう』なことを片っぱしから候補として出してみようかなって」
 あたしの言葉に王子が強くうなずいた。
「まずは縛りを設けずに案を出してから、その後で具体的に『やれるかやれないか』を話し合うってことだな?」
「うん。最初から時間とか制約つけて考えると、アイデアが小さくなっちゃう気がしたから。……ダメ?」
「いいんじゃねぇか」
 しおりちゃんも頷いてくれてるので、まずはホッとする。
「じゃあ……」
 すっとしおりちゃんが手をあげる。
「じゃあわたしから。この町周辺の心霊スポット探検を紹介したいかも」
「えええ? このあたりって心霊ポットがあるの!?」
「けっこう多いのよ。神社の裏手に『入ると死ぬ』ってかいてある看板がある神社とか」
 ひっ。なにそれ、怖い! でもものすごく興味ある!
「あそこだろ?『うなる狛犬』がいる神社。呪う相手が来ると必ず雨がふるっていう」
「そう! ちょっと遠いけど処刑場跡とか。あそこは霊感がない方でもきっと楽しめると思う!!」
 しおりちゃん、頬を染めてめちゃめちゃウットリしてるんですけどっ。
 それにいつものしおりちゃんより、楽しそうに見えてあたしも嬉しくなった。
「そこはあたしも知ってる! でもいったことないから雰囲気や歴史がわかったり、写真が
 あったり、由来やそこで起きたとされる心霊現象とかまとめたら面白そう!」
 あたしの言葉に背中を押されたのか、しおりちゃんはそのあともエンマですら知らなかった
 心霊スポットを次々と披露してくれたのだった。
「じゃあ次はオレ」
 エンマが手をあげる。相変わらず携帯を見っぱなしだけど!
「青陵学園の先生たちのあんなウワサこんなウワサ」
 ゲッ、いきなりゴシップ誌!?
 エンマの持ってるネタなら、すごく興味あるけどっ!
「たとえば?」
「たとえばわが校の歴代かくれズラ教師。トップは校長な」
「そんなの紹介できるかー!!!……って校長先生カツラなの!?」
 あたしが思わず叫ぶと、エンマは「その顔が見たかった」とばかりにやりと笑う。
「ま。そんなヤベーネタ放出しねえよ。もったいねえからな。知ってるやつは知ってて、別に先生も知られても困らないようなネタにすりゃいいんだろ?」
「そんなのあるの?」
「体育教師の剛力猛」
 毛むくじゃらで、声が野太くて『学園の殺ヒグマ』っていわれてるくらい、ものすごーく怖いの。
 しかもあたしを猛烈に柔道部に誘ってくるんだよね……。
「これ見てみろよ」
 エンマが携帯を机に置く。
 手にとると、そこには超プリティなキャラ弁が映し出されていた。
「なにこれ、超可愛い!」
 そういってどんどん他のメンバーに携帯をまわしていく。
「ーーこれを剛力が作ったっていったらどうるす?」
「ええええええ!?」
 思わず全員で絶叫しちゃったよ。
「柔道部ではちょっと有名。ああみえて乙女男子なんだよ。弁当も手作りで毎日持参」
 ひえー!
 剛力先生の意外な一面を見たよ!
「他には? 他には!?」
 そうだなー…。
 自分の手元に戻ってきた携帯を捜査していた、エンマが「これなんかどうだ」とかいって、手を止める。
「誰これ? セクシーお姉さん!」
 真っ赤なドレスを身にまとった女性が、華麗にポーズを決めている。
「これウチらの担任だよ。
 趣味でアルゼンチンタンゴやってるんだって」
「ひえええええ!」
 だって普段は凄くまじめそうな先生なのに!
「なるほど! それなら逆によろこばれるかも!、先生が身近に感じられるって。あたしなんか転校生だから、そういうのがあったら、すごく助かるよ」
「転校生じゃなくても、こっちから思わず話しかけたくなっちゃうわね」
 そう言ってしおりちゃんが微笑む。
 そしてあたり前なんだけど、『先生』って二十四時間ずっと先生ってわけじゃないんだもよね。つい先生はずっと先生って気がしちゃうけど、色々な顔を持っている一人の人間なんだ。
「これもすごくいいよ! せっかくだから写真もちゃんと使って紹介しよう!」
 そして…王子に向き直りあたしは神様にお願
 いするポーズをとる。
「王子には例のやまかけ!をうちでも……」
「却下。なぜ新聞部の名物コラムを移植せにゃならん」
「だ、だって……あれうちでもやりたいんだもんっ」
「俺はあくまで手伝い」
「ちえっ、王子のケチ!」

 あたしが唇を尖らせて言い放つと、王子がムギュとあたしの鼻をつまむ。
「いたっ!」
「ケチじゃないだろ。おまえ大事なこと忘れてないか?」
 へっ? 雑誌全体の内容も固まってきたし、超イイ感じじゃん!
「だれがこれをデザインするんだ! だれがカット描いたり写真貼り付けたりするんだっ!?」
 げげげ。そっかそうだね。
 あたしが口をパクパクしながら絶句していると、王子は大きなため息をついた。
「新聞部で色々手伝ってくれてる奴らに声かけてみる」
「王子! ありがとうっ!」
 そうだよね。本は色々な人の力が集まってできるんだもんね。
「じゃあ王子には今回の進行管理をお願いしますっ」
「……一番面倒なのがまわって来た気がするのは、気のせいだろうか」
「「よろしくお願いしします!」」
全員の声に王子は「今回だけだぞ」といい、しぶしぶ頷いた。

「できたー!」
新しい台割りを誇らしげに見せる。
あー。本当にさっきは大失敗。穴があったら入りたいよっ。
みんなで雑誌を作るには、こんな手順だったんだ。

1 みんなでその号に何を載せるか話し合い
2 話し合いをもとにあたしが台割のたたき台を作成
3 編集部みんなで確認&再調整
4 台割決定!

 あのあと、みんなで企画を出し合って、台割を決めなおした。
 やっぱりみんなで案を出し合った方が断然良いよね。
 それにしおりちゃんの占いも、なんならできるのか、ちゃんと最初に聞くべきだった。
 くやしいけど、王子のいってたことが全部勉強になったよ。
 目玉はやっぱり知名度バツグンのトウマ先輩のマンガ。
 しおりちゃんの占い特集に、エンマの情報を駆使して作る「虹ヶ丘学校の七不思議」。
 ビックリしたけど、エンマって本当に色々知ってるんだよね!
 味方になると本当に心強いよ。
 『学校のスキャンダル』って記事を作ろうかって案もあったんだけど、校長先生がズラだとか、あまりにもシャレにならないくらいのネタばかりだったので、やめました……。

「ゆのちゃん、あれからトウマ先輩ってどうなの?」
 あたしは小さく首を振る。
「全然」
 実はあれから先輩には完全に逃げられまくっている。
 休み時間のたびに教室へ行ったり、机に手紙を入れたり、近くの席の人に伝言頼んだり。
 でも先輩は物凄い強い意志で、あたしを避けてるんだよね。
「落ち込んでてもはじまらないし、とにかく突撃してくるよ!」
 とにかく先輩と話をする。
 まずはそこからだ!
 あたしはグッと拳を握りしめると、気持ちを引き締め誓うのだった。
 



「たのもー! 青木トウマ先輩いらっしゃいますか?」

 今まではあたしが教室に来るたびに、まわりが注目してたけど、今はあたり前の光景になりすぎちゃっていて、誰も振り返りもしない。 したためた『お話させてください』と書いた手紙を机に入れようとするる。
 スカートをなびかせてズンズンと近寄ってきた、長身の先輩にバチンとはねのけられた。
「痛っ!」
「……いい加減にしてくんない? トウマ、マジ困ってんの」
 髪を緩くウェーブさせた強烈美人な女子が、あたしの手を睨み付ける。
 それを皮切りに、クラスの女の子たちが「そうよそうよ」とか「アンタが来てからトウマくんが教室にいなくなっちゃったじゃない!」と叫びはじめた。
 そうだ! 休み時間のたびに来てたから麻痺してきちゃってたけど、ここって先輩の
 教室なんだものね。
「女子。う・る・さ・い」
 ドスの利いた声で、便乗してあたしを責めていた女性とたちを一喝する。その声には全員を一瞬で黙らせてしまう、迫力があった。
「アンタはちょっと屋上にきな」
 あの少女マンガによく出てくる屋上へのお呼び出しが現実に起こっちゃった!
 あー! もう万事休すだよー!!

                                    ◆◇◆

「約束しな。もうこれ以上トウマに近づかないって」
 怖い。怖いよぅ!
 屋上に呼び出しなんてマンガみたいじゃん!
 ママにいったら「マンガのネタ、きたあああ!」って興奮するだろうな。
 そう思ったら、こんな非常事態なのにクスッと笑ってしまう。
「なに笑ってんだよ」
 尖った声で先輩にすごまれる。
 でも。
 あたしは震える足を奮い立たせ、あたしは毅然とした声でいった。
「……約束はできません」
「はあ? なめてんじゃねーよ」
 突き飛ばされて、思わず尻餅をつく。

 逃げるな。逃げるな。逃げるな。

 ここで「はい、諦めます」って言うのは簡単。
 まだトウマ先輩とも話してないし、なによりようやく動きだしたあたしの夢。
 絶対に簡単に諦めたくないよ。
 あたしはスカートの裾の汚れを払うこともなく、立ち上がる。
 目の前の先輩に目をじっと見つめた。
「この学校に雑誌を作りたいんです。みんながワクワクするような、そんな雑誌。それにはどうしても青木トウマ先輩の力が必要なんです」
 あたしの言葉に先輩は、呆れたようにため息をつく。
「そんなのトウマには関係ないし、何よりアンタの目的のためには、誰が迷惑しても構わないっていう訳?」
「……そうかも知れません」
「ーーオマエ自分が何いってるかわかってんの?」
「わかっています。雑誌ができ
ようができまいがトウマ先輩に関係ないことだって」
 知名度もなく、そもそもまだ生まれてもいない雑誌。
 そんな雑誌が成功しようが失敗しようが先輩にはどうでもいいことだ。
「まだはじまってもいない雑誌だけど、先輩に必ず『ここに描いてよかった』っていってもらえるものを作ります!」
 あたしは相手の目をじっと見つめた。
「そのためにどうしてもあたしが先輩の原稿を欲しいんです」
 あたしがそういい切り、しばし睨み合った後。
 目の前の先輩はいきなりアハハハと豪快に笑いだす。
 それはさっきまでのビリビリしたオーラが消えたような気がした。
「アンタが本気なのはよくーわかった。上級者相手に自分のためっていいきる生意気な性格、あたしは好きよ」
 にっこりと微笑む。
「あたし青木ミヤ。いきなりヤキ入れてわるかったね」
 青木?
 え。それってもしかしてーー。
「そう。トウマの双子の姉なの」
「えええ? 似てない!」
「似てないよ。二卵性だもん」
 あ。でもこの人って本当にキレイ。
 トウマ先輩は甘い王子様みたいなルックスだけど、ミヤ先輩はちょっと近づきがたいオーラをかもし出す正統派美少女。思わず見とれて頬を染めてしまう。
「―――そんなわけでトウマ。あたしはこの子の味方になるから。一度話し聞いてやれば」
 え?
 思わず後ろを振り返ると、トウマ先輩が立っていた。
「ハイハイ、こうさーん」
 唇を尖らせながら両手を挙げ、参りましたというように、トウマ先輩が現れた。
「それって原稿を描き直してくれるってことですか!? むぎゃっ」
 つかつかとあたしの前に歩み寄ったかと思ったら、思いきり両側の頬を引っ張る。
「違うよ。おばかさん☆ 鬼ごっこをやめるってこと。ゆのちゃんが他の子とは違うってことはわかった」
「はい」
「俺はミヤちゃんほど甘くないからね。そこまでいうなら、土下座してよ」

 DOGEZ?
 土下座ってあの土下座だよね?
 あたしはあんぐりと口をあけてトウマ先輩を見た。
「そう土下座。そしたら考えてやってもいいよ。やるとは言わないけど、気が変わるかも知れない」
 あたしはこの人に土下座しなきゃいけないほどヒドイことをしたのだろうか。
 しかも土下座だけさせて「ムリ」って言われたら、頭の下げ損だよ!?
 理不尽だ。
 理不尽だけど、あたしの目的は1つだから。
 頭下げよう。
 ……でも悔しくて悔しくてどうしても体がいうこと聞かないよ。
「トウマ! 年下の女の子にそこまでさせる必要ないでしょ!」
「ミヤちゃんは黙ってて」
 思いのほか強いトウマ先輩の声に、ミヤ先輩が一瞬怯む。
 トウマ先輩は吐息がかかるほど近くにやってきて、あたしにささやいた。
「殺しそうな目で睨んでくる女の子ってゆのちゃんがはじめてだよ。かわいい」
「じゃあ考えておいてねー」
 ヒラヒラの手をふるトウマ先輩の後を姿を、黙って見送ることしかできなかった。

 くやしい!
 くやしいーっ!

 

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