2016年11月読書メモ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

『この世界の片隅に』鑑賞の衝撃未だ衰えず、そればかりか意識せずともふと心をよぎりざわめく。昔、物語消費論の文脈で世界観構築の重要性が謳われたことがあったが、今では乳くらべに代表されるようなキャラ設定に堕しているのが現状。当該作品は片隅を描くために、世界を厳密に描き出す。何気ない背景、風俗端々まで膨大な検証と調査に裏打ちされた圧倒的なリアルに描かれた世界の下に配置された、登場人物たちの言動・行動にリアリティが宿る。「映画」として歴史に名を刻むことになろう作品に出会えた幸せに乾杯。

 

 

 

 

 

「アレロパシー」という植物による他感作用に焦点を絞り紹介する書籍。進化理論の考え方からすると至極自然な発想。よくよく考えると森林浴が心地よく感じられるというのは気のせいでなければ自身の中の虫下し効果かもね(苦笑)

小林美希さんの労働における若者・女性問題即ち社会・会社への焦点の当て方をA面とすれば、夫婦・家庭内に焦点を当てたB面攻撃。男性ならば震撼することこの上なし。妻から夫への愛情は、妊娠から2歳児ぐらいまでの間に3割位に低下する―。専業主婦から夫婦共働き社会へと90年代後半には転換しているがあわせてライフスタイルを変換できていない夫は恨みを醸成させ続け、別れるよりも、殺すよりも「死んでくれる」ことがお得という残酷な結論を出されるに至る。

脂肪は食糧の乏しい人類史において、富の象徴であった。それが現代においては悪の象徴と烙印を押されるまでを様々な角度から切り取る。その中でも生態学的錯誤を孕むと指摘されていた1953年キーズ博士7ヶ国研究が独り歩きし、飽和脂肪酸悪魔説の誕生。そして全米心臓保護協会・公益科学センターががなりたてて、置き換わった部分硬化植物油(トランス不飽和脂肪酸)、そしてその方が健康に悪いと判明し不飽和脂肪酸の廃止に躍起になるとかこれぞ「不健康」そのもの。

戦時中に「欲しがりません勝つまでは」という教科書に残る名キャッチコピーの作成過程に関わったに関わらず、自身の雑誌では広告を廃したその姿勢―。「一銭五厘の旗」に代表される消費者運動の拠点としての暮しの手帖を作り上げた花森安治氏についてともに働いた人間にインタビューという記録を残した書籍(ただし共産細胞とか、広告忌避とか、深掘りが随所に欲しい一冊)。