父の想い | 合掌

合掌

俺の生存記 

ムスコが幼稚園から七夕の笹飾りを持ち帰ってきた。
短冊にはムスコ直筆で『おすしやさんになります』と書いてあった。
「なりたい」っていう希望じゃなくて。
「なります」って断言してるのか!(笑)

7月7日は木曜日。
アイツが仕事に行く日だったから。
義母が幼稚園に迎えに行ってムスコを預かってくれている。
この短冊を見てさぞ義両親も大喜びしたことだろう。
そうアイツに言ったら笑って。
「お父さんねぇ、この短冊を写真に撮って待ち受けにしてるの!」

ははは!
そりゃ~よっぽど嬉しかったんだろうなぁ。
俺は初めて義父を可愛いと思った(笑)

南無妙法蓮華経

俺達がこの家を買い取ることを報告しに義両親の家に行った日に。
義父から自宅の店舗部分を改装するっていう話しを聞いた。
(元々は義両親の家を二世帯住宅に建て替えて同居する計画であったが、その話しは白紙になった。)
そこで義父の想いを聞いた。

義両親は寿司屋を営んでいるのだが。
ここ10数年の宅配寿司や回転寿司の台頭により。
義両親の店もその影響を受けている。
義父によると店を閉じる同業者が年々増えていると言い。
つい最近も仲間が寿司屋から居酒屋へと転業した。
今は何とかやってはいけているが。
自分達も考えなければいけないのだと言った。

「多少なりともやっていけてるなら、
何も今更お金を掛けて店の改装なんて、
しなくてもいいんじゃないの?」
そう言ったアイツの言葉に俺も頷く。
その時俺達に向かって義父はこう放った。
「お前らは底が浅いな!!」

「価格じゃ敵わないが腕なら勝ってる。
サービスもやりよう。
ウチの店に来てもらえれば、次もまた来たくなる。
そういう自信はあるんだよ。
でもな、自慢の腕も店に入って貰わなきゃ見せられねぇだろ?
考えてみな、個人の寿司屋って入りやすいか?
俺はそこからやり直そうって思ってんだよ。
もうひと頑張り、これが最後だけどな!!」

それから義父は店への思いや。
常連さんへの思いなどを熱く語った。
そして二世帯住宅計画のことを。
あれは俺も魔が差したんだなと言って笑った。
その笑顔の義父は。
なんかすっげぇ格好良くて。
人間は誰でも年を取るけど。
情熱は年を取らないんだと俺は思った。

将来。
ムスコが寿司屋になるかなんてわからない。
けどムスコには。
義父のように。
心に情熱を蓄えた男に。
生きる力を持った男になって欲しいと。
俺は願うのだ。

合掌