幻想雪恋歌 7 | The Lilies And Roses

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自由にのんびりと書きたいお話を載せていきたいと思います。
Laylaの完全自己満足&文章力UPの為の修行場です(´∀`)



家で演技練習をした数日後…いよいよヒール兄妹の映画「Labyrinth(ラビリンス)~雪の華~」のキャスト初顔合わせで…俺は少し緊張しながら現場へと向かった。

前回…「Tragic Marker」の撮影でカイン・ヒールとして…俺は結構周囲の人達に迷惑を掛けてしまったから――…。

今回の映画の撮影はバンドが中心で…そのバンドメンバーが主なキャスト陣。

まずは物語の前半、イギリスでバンドを結成する。カインの俺がギターで最上さんの雪花がヴォーカル。

イギリスのロックスター“ロイ・ウィリアムズ”が今回の映画の為に来日し、カインの親友レヴィン役としてベースを担当。

そして…物語の後半に日本デビューの切欠を作るバンドのマネージャー役に村雨。

その後、日本で新たにバンドメンバーに加わるドラム役に貴島君。



…父さんの友人の影響でギターはそれなりに弾ける俺――…。

でもカインが歌うシーンもあるから…これからはギターだけでなくボイストレーニングもしっかりとしていかないと…って思う。

だけど…ボーカルである最上さんをまた練習に誘えるって思うと…自然と顔の筋肉が緩んでしまう――…。



幻想雪恋歌 7
~TRAGIC LOVE~


「…あ…敦賀さん…!おはようございます」

「おはよう…早いね…?最上さん。まだ顔合わせの時間まで1時間くらいあるよ」

「そうなんですけど…何だかワクワクして朝早くに目が覚めちゃったんです…!」

そう言うとキョーコは嬉しそうにしながら持っていた台本を握り締めた。

「…そうだったんだ…?」

「…はい///」

(…あんまり朝から可愛い顔を見せないで…?実は俺も昨夜はあまり眠れなかったんだよ…。

演技練習の時に久し振りに感じた…君の柔らかい温もりが忘れられなくて――…。)

「雪花にはとても思い入れがあって…大好きな役なので!!それを今度は映画でちゃんと撮って貰えると思うと…もう…嬉しくて――…。」

「あ…途中で…ラブシーンとかには…かなり悩んだんですけど…それも前向きに考えられるようになって来ましたし…」

「…あっあの…その件で…先日は…温かいお言葉を…本当にどうもありがとうございました////とても…嬉しかったです…私――…。」

キョーコは少し顔を紅く染めながら上目使いでそう言った後に深いお辞儀をし、そして…まるで綻ぶ美しい花のように柔らかい笑顔を見せた。

それと同時に蓮の心臓の鼓動は一気に高鳴り…キョーコを愛おしいと思う気持ちが胸から溢れ出していく。

「………………………。なら…良かった――…。」

思わず蓮は今この場で抱き締めたい衝動に駆られたが、今自分達が居る場所が映画撮影スタジオの1階エントランスだったので蓮は両腕を組み…顔だけ爽やかに笑って見せた。

(頼むから…俺以外の男にそんな顔は見せないで欲しいな――…。)

それでも数日前にまた蓮が告白をし、その帰りの車の中でキョーコは少し気まずそうにしていた為、普段と全く変わらないキョーコの態度に彼は心から安心感を覚えた。




「…あれ…?そう言えば…社さんは一緒ではないんですか…?」

「え…?あ…うん。今日は現地集合の予定で…時間もまだ早いから…」

「そうなんですかー!そうですよね…まだ1時間ありますしね」

「…うん」

蓮は爽やかにもう1度笑った後…周囲を見渡した。社の姿はまだ見当たらない。

そして…行き交う人の数は少なくなく、今自分達が居る場所は結構目立つ。

「………………………。最上さん、このビルの向かい側にある公園に…少し散歩しに行かない?ここに居ると目立つし」

「え…?…あ…そうですよね…。私と違って敦賀さんは…オーラがあって目立ちますしね…!行きましょう」

(いや…十分君も魅力的で人目を惹いているんだけど…君はその事に全く気付いていないだけだよ…。)

この1年間でぐっと大人っぽくなり女性の色香が漂うようになったキョーコ。

馬の骨も増えて来ている為、少し焦る部分も蓮にはあった。



(俺のこのどうしようもない程の君への愛おしくて堪らない想いを…これ以上どう表現すれば君は受け入れてくれるようになるのだろう…?

…彼女の心を…何とかして…掴みたい――…。

一度失った“恋心”をまた取り戻すのは容易ではない…と思ってはいたけれど……。

様子を見ながら…また君に告白しよう…。

受け入れてもらえるようになるまで…何度でも…何度でも――…。)




* * *




「うわあーー!!ここの公園ってとても広いんですねーー!!緑もたくさんあって…!!」

目の前の公園は都内でも5番以内に入る有名な広い公園で…蓮とキョーコはなるべく目立たないように、人の少ない森の方へ入って行った。

9月の今の時期は緑がとても豊かで、その自然を眺めていると蓮の脳裏には昔 京都で“キョーコちゃん”と遊んだ時の事が鮮明に浮かび始めた。

懐かしさと…幸せな思い出の数々に、自然と蓮の顔から柔らかい笑みが零れる。そして…キョーコの顔をさりげなく見てみると、彼女も嬉しそうな笑顔をしていた。

「…ふふふ…ここの場所…何だかコーンの森みたい――…。」

その言葉をキョーコの口から聞いた瞬間、まるで自分の愛しい想いが通じたかのように…蓮の心臓の鼓動は高鳴った。

「…へえ…そうなんだ?」

(君も…そう思ってくれたの…? それって…以心伝心――…。)

キョーコが自分である“コーン”をこの雰囲気の似た場所で思い出してくれた事に…蓮の心は愛しい気持ちで溢れ返っていく。

しかし…それと同時にグァムで再会した時に自分がついてしまった“嘘”への罪悪感にも苛まれていく。

蓮はキョーコには気付かれないように、静かに力強く拳を握り締めた。

「………………………っ」



(愛しい君を騙してしまっている事には

後ろめたさを感じているけれど…

今はまだ…伝えられる時期ではないんだ――…。



本来の自分である

“久遠・ヒズリ”としての足掛りを掴むまでは――…!)



グァムでの邂逅から“大切な人”を作る事に対しては前向きに考えられるようになった蓮。

それでも“自分の正体を明らかにする時期”に関しては、自身の“目標”に少しでも届いてから…という思いがあった。

“せめて…ハリウッドから何かオファーが来るようになってから”…と。

何処か男としてのプライドが彼をそうさせたのかもしれない。

“敦賀蓮”でハリウッドまで行き、“久遠・ヒズリ”としても世間に認められるようになる…という大きな目標――…。

その“思い”の所為で愛しい彼女と心が通じ合えなくて、大きな誤解をされている…という事に今はまだ気付かずに…。


* * *


「あ!!敦賀さん!!あっち見てください!!」

「ん…?」

キョーコがキラキラ…と瞳を輝かせながら指を差している森の奥の方に視線をやると、アゲハ蝶を始め…様々な色の秋の蝶々の姿が見えた。

「蝶々!!綺麗な蝶々がたくさん飛んでますーー!!」

そして…そう言ったと同時にキョーコはうっとりとしながらその綺麗な蝶々が飛んでいる森の奥へと、どんどん早足で進んで行ってしまった。

「………………………。///」

一人取り残されてしまった蓮は遠くなっていく彼女の明るい足取りの後ろ姿を見つめながらクス…っと優しく微笑んだ。

(ふ…相変わらず可愛いな…君は。グレイトフルパーティーの時も作り物の蝶を集めていたし。

そういう…君の純粋さにも…俺の心は癒されていくし…虜にして離さない――…。)

蓮は愛おしさで蕩けそうなくらいに甘い表情をした後、先に行ってしまったキョーコを優雅な足取りで追って行った。



* * *



そして森の奥の方まで進んでいくと、その先には太陽の神々しい光の中…蝶々達に囲まれて寝転がっている金髪青年の姿が見えた。

青年は艶やかに微笑みながら蝶々と友達のように仲良く戯れ…そよ風が木々の隙間をさらさら…と優しく吹いていく――…。

自然に愛されているその姿は本物の妖精のように麗しく、まるでその場所だけ時の流れが違うような…不思議な空間に感じられる。

「……………………!」

「……コーンーーー?!」

キョーコが思わずそう金髪の青年に向かって大きな声で呼び掛けると…驚いた蝶達は離れていき、青年は優雅にそっと上半身を起こした。

太陽の光に透けて…金髪青年のエメラルドグリーンの瞳が一瞬 “赤茶色”に変わる――…。

『......Corn....??』

そう言うと彼は綺麗に輝く金髪をそっと掻き上げ、不思議そうな顔でキョーコの方を見つめた。

「コーン…!コーンでしょ…?その瞳の色…!」



「……最上さん…??」

キョーコに追い着いた蓮は…そこにいた金髪青年を見つけて一瞬 動揺した。彼は久遠スタイルの自分と似ている。

輝くような金髪と、光で赤茶色に一瞬変わる翠の瞳は同じだ。

(何者だ…コイツは――…?)

更に金髪青年が立ち上がると…自分の身長と同じくらいの高さだった為、蓮は少し驚いた。

『…………………………。』





そして…何秒か沈黙が続いた後、金髪青年が蓮を見つめて口を開いた。

『あ…君はレン…! レン・ツルガだね…? まさか…共演者にこんな所で出会うなんて…不思議だな――…。』

『初めまして…俺はロイ・ウィリアムズ(Roy Williams) 』

「え…“ロイ”?!じゃあ…もしかして君はベース担当の…?」

『そう。カインの唯一の親友…“レヴィン”(Levin)役だよ――…。』

蓮の言葉にロイは頷き、柔らかく微笑んだ。穏やかでふんわりとした不思議な雰囲気を持っている。



(彼が“ロイ・ウィリアムズ”か――…。

名前は台本に載っていたから知っていたけれど…普段イギリスで活動している彼の顔まではちゃんと確認していなかったな…。)




『……………。ん…?君…大丈夫…? …どうして泣いているの…?』

(…え…最上さん――…??)

蓮がキョーコの方を見ると…彼女の瞳から静かに涙が零れ…頬を伝っていた。

「………………………っ」

「…貴方が…妖精かと思ったんです…私の大切な……。」

『…………妖精…?』

キョーコは落ち込みながら僅かにコクンと頷いた。

「…大切な存在で…貴方に…とても良く似ているんです……。」

『………………………。』

ロイは妖精…?と最初は少し驚いたが、目の前で少女が泣いているので自然と慰め始めた。

『…そう…。君は…俺がその大切な妖精に見えたんだね――…?』

そう言うとロイはそっと手を伸ばして優しくキョーコの涙を拭った。

『いいよ…?何なら…君のその大切な妖精の話を聞かせて…?』

穏やかで…ふんわりとした雰囲気の中に、人を惹き付ける不思議な魅力を彼は持っている。

そして…キョーコが幼い頃に出会った“妖精コーン”の話をし始めると、その話に優しく耳を傾けるロイ。

妖精との思い出話を決して笑ってからかったりせずに普通にそのまま聞いてくれるロイに対して、キョーコは嬉しさを感じながらも少し不思議に思った。

「…あの…?」

『ん…?』

再び蝶がロイの周りをふわふわ…と舞い始めた。彼が手をそっと優雅に伸ばせば、その指先にアゲハ蝶が静かに止まる。

「笑ったり…馬鹿にしたり…しないんですか…?その…突然“妖精”の話とか…されて…。」

『……どうして…? 俺が小さい頃住んでいたイギリスの村には“妖精”の伝説があったよ…?心から信じてる者だけにその姿を見せるんだ…』

「…え……?そうなんですか…?!」

『うん…。だから…君は…きっと普通の人よりも純粋で…とても綺麗な心を持っているんだね――…。』

そう言うとロイは柔らかく優雅に微笑みながら…キョーコの頭を優しくふんわりと撫でた。

「え…そんな…私――…。」

キョーコ自身、からかわれる…と思いながら話しただけに、“妖精コーン”の話を普通に受け入れてくれたロイに対して親近感を持った。



そして二人が妖精の話をしていた間、会話に何となく入れなかった蓮はロイの存在に…イヤな予感を覚えた――…。

…もしかしたらコイツは相当面倒な馬の骨になるかもしれない…と。


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