幻想雪恋歌 8 | The Lilies And Roses

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自由にのんびりと書きたいお話を載せていきたいと思います。
Laylaの完全自己満足&文章力UPの為の修行場です(´∀`)



ロイの存在に…何だか直感で俺は何だかイヤな予感を覚えた。
もの静かで柔らかな…彼が持っている独特で不思議な雰囲気。

彼がいるだけで…まるでそこの空間だけ時の流れの感覚が違うような…。

それに…彼は最上さんの“妖精コーン”の話を笑ったり…からかったりせずに普通にそのまま受け入れ、自然体で聞きながら慰めていた。

その所為もあってか…たったの数十分でもう最上さんは彼に心を許してしまったように感じる。

イギリスやアイルランドの方では妖精伝説が残っていて、今でも実際に信仰している人が中にはいる…というのは知っていたけれど――…。

彼女が初対面の男性とこれだけ打ち解けているのは珍しいように思う。

単にロイが妖精コーンと似ているだけでは無い…。

彼は聞き上手で…そしてやっかいな事に…どうやら二人は気が合うらしい――…。




幻想雪恋歌 8
 ~TRAGIC LOVE~


映画撮影スタジオの一階エントランスでロイは自分のマネージャーと待ち合わせをしている為に蓮、キョーコと一旦離れ、二人は先に顔合わせで使用する会議室へと向かった。

会議室前で社と合流し…中に入ると開始には少し時間があるにも関わらず、もう既に映画関係者がかなり集まっていた。

蓮達が姿を現すと「トラジックマーカー」の時と同じスタッフが多い所為か、あのカインヒールと敦賀蓮…またその妹を演じた京子も本当に同一人物なのか…と周囲が遠巻きに騒めき始める。

その少し異様な雰囲気が漂う中、二人を見つけた貴島が村雨を連れて声を掛けて来た。

「やぁ敦賀君、京子ちゃん久し振り!」

「貴島君…また共演だね。よろしく。それと…村雨君も」

「貴島さんと村雨さん…!お久し振りです。今回はまた共演よろしくお願い致します。」

キョーコは礼儀正しく美しいお辞儀をした。

そして村雨が二人に対して何か声を掛けようとした瞬間…キョーコは先程よりも深いお辞儀を何回も何回も繰り返しながら丁寧に謝り始めた。

「あ…あぁのっ…村雨さん!!雪花の時に…私っ!もの凄く失礼な態度を取ってしまって…!!本当に…本当に大変申し訳ありませんでした……!!」

「芸能界で売れている先輩ですのに…私のような新人が大きな態度で――…。」

頭を深く深く下げたままでいるキョーコの姿に…あまりにも雪花の時とは違うその礼儀正しさに村雨はとても驚いた。

「えぇぇ…っ京子ちゃん…?そこまでして謝らなくても…!事情が事情だったんだから…しょうがないし大丈夫だよ!」

「…それに…俺全く気にしてないから――…。」

「ほ…本当ですか…?」

「…うん…。だから…頭ちゃんと上げて?」

「……………………………………。」

寧ろ…もう二度と逢える事はないだろうと思っていたセツカちゃんにまた会えて…嬉しいんだけどな…?///

「…え…?今何ておっしゃいましたか…?」

村雨の言葉に蓮の眉間に皺が一瞬寄ったが、彼は気付く事も無く…

“素の京子ちゃんて…とても礼儀正しくて良い子なんだ…”と頬を少し赤らめなから心の中で雪花とのギャップにドキドキしていた。


「…いや…独り言、独り言!何よりも…敦賀君にも驚かされたけど!!」

「あぁ…俺も…カインの時は本当にすみませんでした。思わず役に入り過ぎて色々と暴走してしまった事もありましたし」

蓮は心とは裏腹に…村雨に対して礼儀正しく爽やかな“敦賀蓮”の笑顔で丁寧に謝った。

「何 畏まってるの敦賀君…!確かにカインヒールには困らされた事が多かったけれど…あれが敦賀君だったと分かった時は本当に度肝を抜かれたよ!マジで!」

「…同い年だし敬語はいらないし…色々と演技の話をしてみたいなぁ敦賀君とは!これからよろしく!京子ちゃんもね」

「うん…。よろしく村雨君」

「よっ…よろしくお願い致します!!」

村雨は朗らかに笑った。ちなみに彼と貴島は映画の中ではバンドが日本デビュー決定してからの“後半のみ”の出演である。




「京子ちゃんとはダークムーン以来の共演だね。ってか…また綺麗になったねーー!!ナツ役も美人だったし」

「っ………。もう…貴島さん、また冗談を…。お世辞が本当に上手なんですね!」

「ん…?俺はいつでも本気で言ってるんだけど?」

貴島はニコニコと上機嫌でキョーコに話し掛けて絡んで来る。以前に蓮が缶コーヒーのCMの時に彼を牽制しようとした事があったが、その効果はあまり無かったようだ。

(…面倒なトラブルは避けるタイプだと思っていたけど…そうでも無かったのか――…。)

蓮の顔色を伺おうとせずにその後も楽しい話でキョーコの気を引こうとする貴島の態度に、蓮は軽くため息をついた。



「…そういえば敦賀君…?泰来とこの前 飲みに行った時に盛り上がった話なんだけどさぁ…?」

「………………………?」

(“タイラ”? あぁ…村雨の事か。二人は仲が良いのか――…。)

「何…?」

「京子ちゃんの雪花って…ヤバいくらいに“セクシー”なんだって?!」

「………………………!!」

にっこり上機嫌の貴島とは対照的に…蓮は無表情のまま一瞬 固まった。

「もう羨ましいなぁ…敦賀君は京子ちゃんの相手役で!!俺らは後半まで出番自体が無いから残念だなーって言ってたんだよ。 なー!泰来?」

貴島が村雨に話を振ると、彼は少し照れたように頷きながら雪花について語り始めた。

「…そう。スタイル抜群でセクシーで…。口は悪いけど…ふとした時に凄く可愛い顔を見せたりもするし…。」

「…正直な話…俺…雪花ちゃんに少し…恋してた…///」

「えぇぇぇーー!もう…何を言い出すんですか…村雨さん…!冗談きついですよー?」

「いや…兄と妹だけの世界が出来上がってたから…なかなか近寄るチャンスが無くて…」

その後も素のキョーコを意識してか…少し緊張した様子で“雪花”の話を続けていく村雨。

次第にキョーコはこの話題に途中からどう反応していいのか分からなくなり、恥ずかしそうに黙ったまま顔を可愛らしくほんのりと紅く染めてしまった。

「………………………。」



(…貴島と村雨…。

この2人は仲良く飲みながら最上さんの話で盛り上がっていたのか――…!!

しかも何だ…?村雨のヤツ…!

これから最上さんに近寄る気…満々じゃないか――…!!)



蓮は冷静を装いながらも…キツく掌を握り締めた。

今まで蓮の後ろの方で話には参加せずに様子を黙って見守っていた社にも緊張が走る。

そして盛り上がるだけ盛り上がった後…貴島と村雨はロイの姿を見付け、彼の方へと向かって行った。




(一体…何なんだ今回の共演者達は…??!!

揃いに揃ってうっとおしい馬の骨ばかり…!!

あんな奴らと同じ撮影現場で過ごす事になるのか…?!

後半だけしかあの二人は出演しないとはいえ…それでもうっとおしい事に変わりは無いな…。)

蓮は大きなため息を誰にも分からないようにそっと吐き出した。



(…しかし…その二人よりも…もっと厄介そうな男がいる――…。)

蓮はロイの方を静かに見つめた。彼は結構有名なイギリスのロックバンドのギターヴォーカルらしい。周囲のスタッフ達もチラチラと彼を見ながら噂をしている。

そして…蓮がキョーコの方を見てみると…彼女の視線も…ロイの方へと向いていた。


「…ロイさん…いい人そうで良かったです…。優しくて…聞き上手で…。彼となら…うまくやっていけそうな気がします…。」

「………………………。そうだね…。」

少し複雑そうな表情をしながら蓮はそう応えた。

貴島さんと村雨さんのコンビには何だかどう接していいのか分からなくなって ちょっと困っちゃいました…と言いながら照れ笑いをするキョーコ。

そんな表情のキョーコを見た蓮は今すぐ彼女を包み込むように抱き締めて…

“誰にも見せたくない”

“自分の胸の中に隠し込んでしまいたい”…という衝動に駆られた。

(…もし今この場から離れて二人きりになってしまったら…何もしない自信は無いかも――…。)

蓮は一度 瞳を閉じると…ゆっくりと深く深呼吸を何回か静かに繰り返し、自身の心を落ち着かせていった。


* * *


「………………………。」

「ロイさんを最初に見た瞬間はコーンかと思って…思わず感情が高ぶっちゃいました――…。」

「…うん…そうだったね…」

その気持ちは蓮にも何となく理解出来た。蓮自身も素の自分と似ている彼に一瞬 動揺したのだから。

「それに…太陽に透けると一瞬赤茶色に変わる…あの瞳の色はコーンと同じなんです…。」

「…………………。そうなんだ…瞳の色が…?」

「はい…。ですから…きっとロイさんも古代の妖精の血を引いている“人間”で…遡ればコーンの親戚なのかもしれませんね…」

蓮は“ロイさんも”の「も」の部分が少し気になったが…あえてつっこむ事はせずにそのままキョーコの話に耳を傾けていた。

「あれ…でも…もしそうなら彼は妖精の王族の血を…?!」

メルヘンの世界に入り込んでキラキラとしたキョーコの可愛い姿に、蓮の口元は自然と緩み…さり気なく手で覆い隠した。

しかし蓮のその仕草を見たキョーコは馬鹿にされたように勘違いしてしまう。

「敦賀さん?!今…貴方 笑いましたね…?!」

「…………。いや…あまりにも最上さんが可愛いかったから…」

「何ですかその適当な言い訳は…//// もういいです…。どうせ私は子供っぽいですよ…」

ぷぅ…と拗ねたように頬を膨らませながらキョーコはもう一度ロイの方に目を向ける。




「………………………。もしコーンが人間だったとしたら…あんな感じなのかな――…。」

「………………え…?」

「…コーンをもう少し大人にして落ち着いた雰囲気にしたのが…ロイさんっぽい気がします」

「………………………。」

そして…そう言った後、キョーコは急に憂いたような悲しい表情をして黙り込んでしまい…蓮は戸惑ったように屈みながら彼女の顔を覗き込んだ。

「……どうしたの…最上さん…?」



「………………………。」

「コーンが人間で…いつも傍に居てくれたら良かったのに……。」


「………………………!!」

寂しそうに少し瞳に涙を浮かべながら…切ない表情でそう言ったキョーコに、蓮の胸はズキズキと痛み始めた――…。

「…逢いたい…コーンに…。逢って話したい事がたくさん増えました…。グァムからの一年の間に…。」

「今…何処にいるのかな…?妖精の国に帰っちゃった…?呪いも解けたし――…。」

蓮の心臓の鼓動が切なく…痛みながら速まっていく――…。

「………………………。もう逢えないのかな――…。」

今にも泣き出しそうなキョーコに対して無意識のうちに蓮は自分の手をゆっくりと伸ばし始め…彼女を自分の胸に引き寄せようとしたが…

その行動を起こす前に“顔合わせを始めます”とスタッフの声が響いた。

「………………………!」



「あ…いよいよ始まるみたいですね!席に座りましょう」

キョーコは気持ちを一瞬にして切り替えると…笑顔を作りスタッフが呼んでいる席の方へと向かって行った。

「………………………。」

しかしその場に残された蓮は感情を…直ぐには切り替える事が出来なかった――…。

「蓮…俺達も行くぞ…?どうかしたのか…?」

立ち尽くしたままの蓮に対し…社は少し心配そうにしながら声を掛ける。

「………………………。いえ…何でもありません…。行きましょう」



* * *  


“コーンが人間で…いつも傍に居てくれたら良かったのに”

キョーコのその切ない願いは…

蓮の心の奥にまるで棘のように痛く突き刺さった――…。


しかし…彼は心の棘に痛みを感じながらも

あえて考えないように自分の精神をコントロールする



せめて“久遠・ヒズリ”としての足掛りを掴むまでは

自身の正体はまだ明かせない――…。

“目標を達成するまで”という本来の真面目さと

そして男のプライドに拘っている所為だった――…。



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