高麗から元へと赴き
またその道を戻る

新王と、元より降嫁した王妃を守りながら
進んできた
二十日ばかりの道程も
そろそろ終わりになろうとしていた

ただ一つ帰りの道中で異なることは

王妃のそばには緋色の髪をした女人が居る

瀕死の王妃を救うため 無理やり天界から
俺が連れてきた 神医・・・

まさに神技の所業で王妃の傷口を縫い合わせ
死の淵から王妃を助け出した
その天女のごとき女人は
医者としてのすさまじい集中力と信念を
もち 腹を決めたら黙々と治療を施した

そばで見ている俺などいないかのごとく
ただ黙々と・・・

額から流れる汗さえも神々しい気がして
俺は目が離せずに女人を
ただ凝視していた


王妃が目覚めたらすぐにでも天界へと
お返しすると武士の約束をしたが
未だ果たせていない

いつ果たせるであろうか

下界の様子が腑に落ちないようで
しばらくは 隙あらば逃げ出して
天界へ戻ろうとしていたが
天結は女人の目の前で閉じてしまった
 術がない
あの時、息が止まったように
蒼白になった女人の顔を俺は生涯
忘れることはないだろう

せめてこの命でつぐないたい
詫びたいと
女人に俺を消し去るよう願ったが

その俺をも あの世から救い出し
今こうして俺は此処にいる



すべては王命に逆らえぬ俺の罪
女人に許されるはずもなく
許しを請いたところで
詮無きこと


とにかく無事に高麗に
新王をお連れし
その暁には、隊長の任を解かれ

この淀んだ世の中から身を引き
知る人のない場所でひっそりと
暮らすことだけを俺は願ってきた・・・

武士として生きてきたこの年月 
たくさんの仲間を失い 自分の心も失った

武士として生きるのは もうたくさん

そのことだけしか頭にはなかったのに・・・



女人が下界にとどまるしかなくなった時

どうしてあのとき 天界で女人を見つけ
連れてきてしまったのかと
俺は 俺自身を責めた


他にも華陀の弟子はいたろうに

天界の皆の前で得々と話す女人の
その軽やかに響く声
美しい微笑みに引き寄せられ

その女人と視線が絡んだときに

その深く澄んだしかし寂しげな瞳に
吸い寄せられた

俺は女人を求めたのだ
俺は 女人しか目に入らなかった


緋色の髪の毛に見覚えがある気がしたが

それがいつの記憶なのかは
思い出せぬままに
俺は女人を求めたのだ・・・


誰にも心は動かされまいと誓った
他者と関わらずに生きると決めていた
俺なのに・・・

なのに何と言うことだ

女人の一挙一動が気になって
胸がざわざわする・・・
女人の言の葉の一つ一つが
俺の耳にこだまする

疲れてはいないだろうか
つらくはないだろうか
悲しい思いをさせていることは
わかっている・・・
気がつくと女人を気にかけている俺がいる

いかに償えばいいのだろうか

女人を天界から連れてきたことが因ならば
その果には なにが待っているのだろうか


いつか天界へとお連れする日まで
俺がお護りいたします

その心地よい声も
細く香しいからだも
美しき緋色の髪も
白くなめらかな肌も
震える瞳も
潤んだ唇も
すべてすべて

この命に代えて お護りする故

少しばかりでよいから
俺に心を預けてはくれぬであろうか

其方の笑った顔を見たいのだ
其方の安堵した顔が見たいのだ

それは俺には許されぬ欲であろうか

俺はいったいどうしたのであろう・・・

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天穴を天界と下界が繋がるの意味を込めて
天結としました 



『今日よりも明日もっと』すてきな恋に
巡り会えますように・・・