そこは

光のない世界だった

 

王宮の奥深くに

作られた地下牢

そこに

極悪非道な罪人が

送られてくることはない

 

生きる屍と言われた

その男だけが

ただ時が過ぎ去るのを

待つだけの虚無の中で

息をしていた

 

男は暗闇の中で

自分の色を消し

匂いを消し

顔さえも仮面で隠して

王宮という

華やかな舞台の陰で

息を殺して生きていた

 

生きたいと願うのか

死にたいと願うのか

愛したいと祈るのか

愛されたいと欲するのか

それさえも

誰も知る由のない

暗闇の世界の中で・・・

 

 

ーーーーーーー

 

 

プジャン(副隊長)

こいつ 内功の使い手

キ・チョルの一味でしょう?

逃げられないように

鉄壁な地下牢にぶち込んだら

いいんじゃないですか?

普通の牢屋で

牢破りされたら厄介ですよ

 

 

ウダルチ(親衛隊)の

トクマンは

罪人を縄で縛り上げたのち

副隊長のチュンソクに問うた

 

 

いや それはならぬ

地下牢は

俺たちだって勝手には

近寄れぬ場所なのだ

あそこは

王命を受けた者しか

入れぬからな

 

 

王様の命令か・・・でも

地下牢には鬼神が住み着いて

いるって噂ですよ

鬼神に睨まれたら最後

生きて出られないって

聞いたことがありますもん

こいつにぴったりの

死に場所じゃないですか!?

 

 

罪人はブルブルと首を振って

ウダルチプジャンを

拝むように見つめた

 

 

どれも噂の類だ

真偽のほどは俺にもわからん

俺にわかるのは

この罪人を早く牢屋にぶち込め

というだけだ

良いか 間違っても

地下牢ではないぞ

地上の牢屋だぞ

 

 

へ〜〜い

わかってますって!

 

 

トクマンは

ホッとした顔の

罪人を引き連れて

牢に向かいながら

首をひねって呟いた

 

 

一体 

地下牢にいるやつは

何者なんだ?

いや そもそも

人なのか?

本当に鬼神なのか?

極悪非道な罪人が

こんなに震え上がるなんて

 

 

ーーーーーーー

 

 

配膳係が地下牢に

食事と水を運んで

牢の前に置いて

逃げるように去っていく

 

それが男にとって

この世が

朝になった合図だった

男はゆっくり起き上がると

膳を牢の中に引き入れる

そしてまた転がって

眠りにつく

 

鍵をかけられて

いるわけではなく

実はそこは

自由に出入りできる

場所だった

だが男が

地下牢から出ることは

ほとんどなかった

 

 

男の名はチェ・ヨン

かつて 精鋭部隊の

赤月隊で隊長の補佐を務め

この国の民を悪い輩から

守っていた雷功の使い手だ

 

生憎 先先代の王は

器の小さな男だった

 

赤月隊の活躍や

名声を妬み 憎んだ

そうして重臣たちの前で

隊長を殺め 

男の許嫁を死に追いやった

 

だが 男は

仲間を守るため

王の理不尽な扱いに

甘んじるしかなかった

そして 男は

そんな自分に絶望していた

 

その憎き先先代の王が

失脚し

次に王位を継いだ先王は

心やさしい少年だった

 

少年王は男になついた

男は信義をかけ

若き王を守ると誓い

影となって王を助け

やがて二人には絆が生まれた

 

男はようやく自分の

生きる価値を

見出した気がしていた

 

けれども

時代の渦に巻き込まれ

先王の代も

そう長くは続かなかった

 

そして 先王は

自分が廃位されることを悟り

男にある密命を下した

 

 

ヨンァ

地下牢の奥にある

石門を守るのじゃ

その石門は天界と

ここを結ぶ唯一の天門

天が定めた者しか

その門を開けることはできぬ

不埒な輩が近寄れば

この国に災いが起こるという

言い伝えの石門じゃ

ヨンァ

そなたにとって天門の番人は

孤独な任務となろう

だが 王としての最後の頼み

最後の王命じゃ

どうか この願い

聞き届けてはくれぬか?

余は非力ゆえ

民を守ることができなかった

ゆえに後をそなたに託したい

この国を災いから守るのじゃ

頼むぞ チェ・ヨン

 

 

いつのまにか男の周りに

昔の仲間の姿はなくなっていた

 

絶望の淵にいて

もはや

何も残っていない男にとって

先王の王命は都合が良かった

のかもしれない

 

誰にも関わらず

誰にも干渉されず

 

寝て起きて

また寝て

歳月が流れ

 

男はいつしか

地下牢の鬼神と呼ばれていた

 

 

イチョウイチョウイチョウイチョウイチョウイチョウ

 

 

11月後半は

アメンバー様企画の抽選で

選ばれた もも百々様の

リクエスト話を

お届けいたします

 

地下牢の奥にある

天門を守る孤高の男チェヨン

そして 天門の先にいるのは

美しい姿の彼女・・・

 

「オペラ座の怪人」を

オマージュしつつ

妄想を羽ばたかせた

haru色の世界に

おつきあいくださいませ〜

 

もも百々様

素敵なお話のタネを

ありがとうございました

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村