ユニョンは輿の中で

少しばかり不機嫌に見えた

その理由に母であるウンスは

心当たりがある

 

 

イサも来たら

よかったのになぁ

 

 

花の形の髪飾りを

そっと撫でながら

ユニョンはつぶやいた

その髪飾りは年末の

誕生日のソンムルに

イサからもらったものだ

 

今年は色も形も

スニョンとお揃い

それがちょっと不満

ではあるが気に入っていて

髪につけて来たのだ

 

 

それはムリよ ユニョン

だってしんさつがあるもの

イサにオンマのぶんまで

がんばってもらわなくちゃ

それにしても

ほんと ユニョンは

イサひいきがすぎるわ

 

 

姉のスニョンは

クスクス笑いながら言った

そんな姉妹の様子を

ゴンの相手をしながら

ウンスはつぶさに見ていた

六歳とはいえ

すっかり恋する乙女

と言ったところだろうか

イサの話で盛り上がるのが

なんとなくくすぐったい

 

 

そういえば

ユニョンくらいの頃

年上のお兄さんに

憧れていたかも・・・

 

 

ボソッと母親が言った

言葉に

ユニョンが食いついた

 

 

オンマ!

そうなの?

その人とはどうなったの?

 

 

え?どおって?

何もないわよ

ただちょっとかっこいいな

素敵だなって思ったくらいよ

子供がかかる

麻疹みたいなもんね

でも免疫はつけておいた方が

心が丈夫に育つのよ?

 

 

恋と呼ぶには

まだ早すぎるそんな

ほのかに甘酸っぱい感情を

ウンスは思い出して微笑んだ

 

 

オンマが他の男の人の

はなしをしたら

アッパがりんきするわ

 

 

うふふ 

そうね スニョン

だからヨンにはナイショ

女同士のピミルね

 

 

麻疹って・・・もう!

イサはちがうもん

 

 

あら ミアネ〜

 

 

ウンスは笑って言い返す

まだまだ娘達は

幼な子だと思っていたのに

もう

恋バナの話ができる年頃に

なったのか・・・

子供の成長は本当に早い

タンも

娘達も

随分と手がかからなくなって

逆に何かと助けてくれる存在だ

 

 

ゴン

ゴンはゆっくりでいいわよ

ゆっく〜り大きくなってね

 

 

抱き上げると

目をパチクリして

母親を見つめるその顔が

可愛くて愛しくて

ウンスはその頬にチュッと

口づけた

 

 

そうこうしているうちに

宿屋永遠について

一行はしばし休憩

 

ソダンに行ったカン・ユハは

不在だったが

女将のジヒョンが

にこやかに出迎えてくれた

 

ウンスと同じ年代のこの女将は

かつて高麗一のキーセンで

国中の男を虜にした

美貌の持ち主

なびかなかった男はチェヨン

くらいだとは 本人の弁だ

 

キーセンを辞めてからは

この国一番繁盛した妓楼の

女将に収まり

チェヨンに見込まれて

密偵のような働きをしながら

王宮の外の様子をチェヨンに

知らせていたこともあるが

カン・ユハと出会って

状況は一変した

息子ほど年が離れた男と

恋に落ちたのだ

 

ユハは権力争いに巻き込まれ

王宮のソダンを追い出され

ジヒョンの妓楼に

逃げ込んで来たところを

ジヒョンに救われ

彼女の虜になった

 

高麗一のキーセンだった彼女は

ユハの将来を思って

身を引こうとした

しかし結局 

二人は駆け落ち同然に

花街を捨て

都の外れも外れの

誰にも邪魔されないこの地に

移り住んだ

 

 

相変わらず美しいわねぇ

ジヒョンさん

 

 

ウンスはため息をついて

彼女を見つめた

女でも惚れ惚れするような

艶やかな美しさだ

彼女は学問はもちろん

芸術や詩の世界にも精通し

囲碁や将棋も強く

教養があり話もうまい

一流のキーセンとは

そういうものかもしれないが

それが彼女の努力の賜物

であるのは間違いない

それら全部を捨てて

カン・ユハを選んだ

彼女の潔い生き方にも

ウンスは惚れぼれ惚れていた

 

 

何をおっしゃいますやら

医仙様・・・じゃなかった

ユ先生こそいつまでたっても

変わらない

ぱあっとその場に

花が咲いたようですよ

日々 ヨンさんに

愛でられているのですねぇ

 

 

やだ

からかわないでよ!

 

 

ウンスは頬を赤らめ

うふふと笑った

 

 

久しぶりに会えて

嬉しいわ

 

 

はい 

 

 

ユハ先生には子供達

たくさんお世話になってます

 

 

いえいえ

こちらこそ

 

 

そんな挨拶を交わしていると

サンが馬から降りて

走って来た

 

 

オンマ

ごはん まだ?

 

 

まあ サンったら

 

 

そうでございました

坊ちゃん

少々 お待ちを

 

 

あっあぁ・・・うん

 

 

サンは綺麗なジヒョンの

微笑みに

ちょっとドギマギ

 

 

あら 照れちゃったの?

サン

この人は

ユハ先生の奥さんよ

 

 

しってるよ〜

ソダンでおやつくれるもん

 

 

そっか そうだね

 

 

ウンスは頷いた

ジヒョンは時たま

ソダンの手伝いに

出向くことがあって

子供達とは顔なじみ

ジヒョンは優しく微笑んで

サンの頭を撫でた

 

 

チェ家のお子様達は

みなさん賢くて

将来が楽しみですねぇ

ユ先生 お幸せですねぇ

ねえ ヨンさん?

 

 

遅れて二人のもとへ

やって来たチェヨンに

ジヒョンは声をかけた

 

 

どうであろう?な?

 

 

チェヨンは妻をちらりと

横目で伺う

 

 

まあ 二人して

私に何を言わせたいの?

幸せかどうかなんて

そう軽々と

教えてあげないわよ

 

 

プイと

膨れた顔が愛しくて

チェヨンは目尻を下げた

その横顔が

キラキラと輝いて見えて

ジヒョンには

ウンスの幸せが

手に取るようにわかった

 

 

私は医仙様が羨ましい・・・

愛しいお方のお子を産み

愛情を込めて

お育てになられ・・・

いえ いえ

今の暮らしも私には過ぎた

くらいなのに・・・

嫌ですねぇ 私ったら・・・

さてと 朝餉の用意は

できておりますよ

田舎料理ですが

お召し上がりくださいな

 

 

ジヒョンは微笑み

チェヨン達を宿屋の一室に

案内した

子供達は宿屋が物珍しく

はしゃいで楽しそうだ

そんな子供達を見つめながら

ウンスはジヒョンのことを

思って胸が痛んだ

 

ジヒョンはユハと結婚しても

子宝に恵まれることは

なかった

 

もちろん医者として

彼女から

相談を受けたこともある

 

子を宿しやすいように

様々な薬を処方してみたり

食事に気を配ってみたり

天界の知識を教えたり・・・

だが王妃様のように

うまくはいかなかった

年齢的なものもあるだろうし

長いことキーセンとして

第一線にいたことが

起因しているのかもしれない

 

 

 

 

朝餉を終えて

子供達がその辺で

チェヨンとともに

宿屋の周りを

散策探検している時

ジヒョンはウンスの近くに来て

ぼそぼそと言った

 

 

先ほどはすみません

余計なことを口走りました

 

 

え?

ううん 全然

 

 

歳のせいか

最近 思うんですよ

夫は本当に

私を生涯の伴侶にしたことを

悔やんではいないだろうか

あの人には

もっと普通の暮らしが

あったんじゃないかって・・・

 

 

曇りがちなジヒョンの

顔つき

ウンスは首を振った

 

 

私には

カン・ユハの心のうちは

わからないけれど・・・

でもね

ジヒョンさんといる時の

ユハ先生の顔は

とても穏やかで

いい表情しているわ

安心しきっているのよね

ジヒョンさんがそばにいる

ってことで・・・

それがユハ先生にとっての

すべてなんだと思うな

 

 

ジヒョンはハッとした顔で

ウンスを見つめた

 

 

私もあの人以外に

欲しいものはない

そう思って夫婦になりました

 

 

うん

お似合いのご夫婦よ

 

 

チェヨンと子供達は

雪遊びに忙しく

三男坊のゴンは雪まみれで

転がって笑っている

 

 

たまたま・・・

自分は子宝に恵まれた

時空を超えての

出産に迷いもしたし

悩みもしたが

愛する夫を信じて

一つ一つ乗り越えて来た

 

だけどもし・・・

毒を盛られた影響で

子供が産めなかったとしても

彼はそんな妻を全身全霊で

支え愛してくれただろう

そういう人だから

一緒に歩む道を選んだ

 

ウンスはそんなことを

ぼんやりと思った

 

ジヒョンとカン・ユハには

幸せでいて欲しい

だけど幸せの形は

夫婦それぞれで

自分たちが幸せだと感じれば

それでいいのだと思う

 

 

ジヒョンさん

ものすご〜く綺麗

特にユハ先生と一緒に

なってからね

 

 

ウンスが答えると

ジヒョンが極上の笑顔で

嬉しそうに頷いた

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

一緒に暮らすこと

離れて暮らすこと

子供がいること いないこと

夫婦の形も 幸せの形も

またそれぞれ

 

 

 

くま猫うさぎねずみトラ馬犬

 

 

カン・ユハとジヒョンの出会いは

こちらからダウン

 

 

 

先ほど新潟方面で

地震があった模様です

地震が続いて不安な日々ですが

どうぞ安寧にお過ごしください

被災地の皆様

くれぐれもお気を付けください

 

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