親子でゆっくり過ごすはずが
トッキ（兎）中心
になってしまったわね
別邸内の温泉で体を暖め
夕餉の前の一休みとばかりに
妻の膝枕でゴロンと
寝そべる夫の髪を
そっと撫でながら
ウンスは面白そうに呟いた
それは
それで良いではないか？
此度の別邸はあの子らの
誕生日ソンムルのはずだが
俺が思いがけず
ソンムルをもらった気分だぞ
夫チェヨンは嬉しそうに
妻に答える
五人の子供たちは
隣の部屋で
傷ついたトッキの世話に
夢中になっていて
夫婦は子供らの様子を
気にかけつつ
水入らずで
のんびりとした時間を
過ごすことができていた
そおね
たまには夫婦で
いいわね
こんな時間も・・・
三男坊のゴンは
スニョンが面倒を
見てくれているし
サンのことは
もうあまり心配いらないし
子供の成長って
ほんと早いなぁ〜
そうだな・・・
すっかり一人前の口をきく
ようになりおって・・・
うふふ
ユニョンったら
ヨンを相手に一歩も
引かなかったもんねぇ
あの子があんなにトッキを
かばうとは思わなかったな
ユニョンって
妙に大人びたところがあって
親に対してあんまり
わがままを言わないじゃない
だから
駄々をこねたユニョンに
ちょっと安心したって言うか
そうだな・・・
そうかもしれぬ
トッキは警戒心全開で
プルプル震えている
そんなトッキを見守り
子供らは声をかけたり
餌をやったり
よく面倒を見ていた
その様子を寝転びながら
目を細めて
見つめていたチェヨンは
のっそり起き上がると
急にウンスを抱きしめた
え？なに？なに？
どおしたの？
イムジャ
どこにも行くなよ
ええ？
なにを今更？
どこに行くっていうの？
変なヨンねぇ
ウンスは苦笑したが
チェヨンはふと
いつだったか
ぴょんぴょん跳ねて
笑っていたウンスが
可愛い兎に見えた日を
思い出していた
いつかは天に
お返しするお方
そう心に決めていたはず
なのに・・・
結局 日に日に手放せず
そばに留め置いた
ユニョンに偉そうなことを
言える立場ではないのだ
私はヨンを残して
どこにも行かないわよ
ヨンこそ
私を残して
綺麗なお姉さんのいるとこへ
行ったら承知しないんだから
あほう！
そのようなことするか
本当かなぁ？？
ああ 決して
イムジャを泣かすようなこと
俺はしない
約束する
あらあら
武士の約束は命がけ
なんでしょう？いいの？
そんなに軽々しく約束して
うふふ
ウンスは軽く
チェヨンの唇に
自分の唇を重ね
ヨンには私だけ
私にはヨンだけ
だもの
そう言って
幸せそうに微笑んだ
外は薄暗くなって
雪がちらほら舞い始めている
夕餉の匂いが辺りに立ち込め
お腹がグゥとなりそうだ
そこへ
奥様
夕餉の準備が整いました
寒いですので
みなさまが暖まるようにと
チゲにいたしました
マンドゥも蒸し直して
ございます
気の利くヘジャの声が聞こえ
ウンスは慌ててピョンと
チェヨンの腕の中から
照れ臭そうに飛び出した
すでに四十を過ぎた
五人の子持ち
なのに・・・
未だにイチャイチャと
新婚の頃のような自分たち
・・・さぞや・・・
ヘジャは呆れているだろう
けれどもそこは
よくできた信頼の置ける
女中頭だ
顔色一つ変えずに
ウンスに用件を告げると
旦那様にぺこりと頭を下げて
しずしずと
厨房に戻って行った
さすが
ヘジャだなぁ
ウンスは
なんだかおかしくなって
クスクス笑うと
子供達に言った
ご飯できたって〜
トッキの治療で
昼飯を抜くことになって
その後はつきっきりで
トッキのお世話
子供達も
お腹ペコペコのはずだ
ペゴパ〜〜〜っ
あああ
お腹すいたぁ〜
元気のいいタンの声
いいにおいがするねぇ
サンが続いて
笑顔を見せる
お魚いっぱいの
ヘジャ自慢のチゲ（鍋）よ
魚は先ほど夫が川で
釣り上げたもので
冬野菜と一緒に
鍋に収まって
グツグツ煮込まれていた
鍋から上がる湯気は
見ているだけで
心が温まる
何より
久しぶりに家族みんなで
囲む夕餉は
それだけでご馳走だった
＊＊＊＊＊＊＊
『今日よりも明日もっと』
ちゃんと寝て食べて
普通の暮らしを
愛しく思う
4年前のお話も
タイトルはうさぎ（トッキ）
でした〜
今季最強寒波に
お気をつけくださいませ
またおつきあいくださいね
