養成所虹の寮母ホン・ソアは

食堂の隣にある小さな厨房で

夜食のアワビ粥を作っていた

 

もともと寮の食事は

女官たちと同じものを

王宮の厨房から運んできて

それを食堂で

配膳するだけだったのだが

夜遅くまで熱心に

勉強している学生たちと

接するうちに

温かな夜食やおやつを

用意したいと思ったソアの

希望が叶い

寮内に小さな厨房が出来たのだ

 

 

そろそろ

いい頃合いかしら?

 

 

ゆるりと鍋をかき混ぜて

ソアは微笑んだ

もちろん実家にいる時は

料理などしたこともない

高貴な家柄に育ち

大妃様の親戚筋の自分が

夜に学生のために粥を

作るようになるとは・・・

そんな自分がソアは嫌いでは

なかった

むしろ学生たちに頼られて

生き生きとした今の暮らしが

楽しく思えていた

 

 

ソア様

すごくいい匂いね

お腹が空きました

 

 

猫みたいにゴロゴロ

喉を鳴らしているのは

二期生のナオだ

彼女は女官になる予定が

女医を目指して養成所の

門をくぐった

あれから二年・・・

もうすぐ行われる卒業試験

に向けて猛勉強をしている

 

 

ここを卒業したら

ソア様のお夜食が

もう食べられないのねぇ

 

 

あら ナオさんは

典医寺志望でしょう?

もし

典医寺にお勤めなさったら

いつでも

食べに来てくださいよ

 

 

あああ 耳が痛いわ

典医寺に残れるのは

ほんの一握り

しかも成績順だって

噂があるもの

私は無理だと思うの

寮長のサユナが本命で

二番手はレイじゃないかって

言われているもの

でも・・・

残れたらいいなぁ

まだまだ勉強したいし

それに上護軍様のお役に

立ちたいのよねぇ

レイも言っていたけど・・・

戦の時の医療団として

戦場に赴いて兵士の怪我を

治したいわ

これこそこの国のために

なるでしょう?

 

 

あら 

私はサラ校長のようになって

産科の専門医になりたいわ

戦で傷ついた兵士の手当ても

もちろん大事なお役目だけど

産科は新しい命の

誕生の瞬間に立ち会えるのよ

素晴らしいじゃない?

ポム様の出産の時に思ったのよ

ああ 

こんな素敵なお仕事はないって

 

 

アワビ粥につられて

厨房に来たリヨンが

ナオに告げた

 

 

でも私・・・本当は最初

医者になって

お金を稼ぐのが目的だったの

うちは両班だけど

貧しいでしょう・・・だから

家族を養っていかなきゃって

意識が人一倍強かったのよ

だけど この二年の月日で

すっかり考えが変わって

しまったわ

命を預かる仕事だから

中途半端な覚悟では

やっていられないもの

それに

何よりお世話になった

医仙様のお役に立ちたいわ

この国の女人たちが

憂いなく出産に臨めるように

微力ながら力を尽くしたい

・・・と言っても・・・

まずは

ここをちゃんと卒業して

医師免許をもらわなくちゃ

ね?

 

 

そうですよ

だから二期生はみんな

目の色変えて

試験勉強でしょう?

私はみなさんの夢が

叶うように祈ってますよ

 

 

寮母のソアは

お粥をよそいながら

リヨンに答えた

 

 

あっ お夜食?

まだあるかしら?

部屋で勉強していたけど

ちょうどお腹が空いて〜

 

 

二階から降りて来たのは

大きな薬房の跡取り娘の

ケイだった

 

 

もちろんたくさん

用意してありますよ

さあ ケイさんどうぞ

召し上がれ

 

 

そういえばケイは

家を継ぐの?

あなたの進路

ちゃんと聞いたこと

なかったわ

 

 

お粥を頬張りながら

ナオがケイに尋ねた

 

 

あああ

う〜〜〜ん

親にはねぇ

薬屋を継いで欲しいって

会うたびに言われてるわ

ただねぇ

あたしは薬師じゃなくて

医師になりたいの

もちろん医術の知識を持った

薬師の方が よりいいのは

わかっているし

民のための薬屋も

やりがいはあるけど・・・

でも あたし・・・

医仙様や侍医様みたいな

鮮やかな縫合術に憧れてるの

だから 悩ましいのよね

 

 

継ぐものがあるのも

案外不便なのも

なのねぇ

 

 

リヨンがぼそりと

ケイに言った

 

 

あっあたしは・・・

そんな風に進路を

考えることができる

みんなが・・・

羨ましいです

だって・・・それ以前に

医官の免許証

取れるかどうか・・・

自信なくって・・・

 

 

食堂の隅で小声で

話すのは内気な絹屋の娘

ソラだった

 

縫合や他の実践実習が

始まった頃から

つくづく

赤い血が苦手だと思い知った

ソラだったが

ただただ医仙様に近づきたい

あんな素敵な女人になりたい

その一心でこの二年の月日を

乗り越えて来たのだ

もちろん医仙様の志にも

深く感銘を受けている

だが・・・

学力試験はまだしも

実技試験は本当に自信がない

血を見て途中で

ひっくり返ってしまったら

どうしたらいいのだろう?と

頭の中はぐるぐるしている

 

 

大丈夫よ

いざとなったらソラは

肝が座っているもん

それに比べてあたしは

おっちょこちょいで

困っちゃうわ・・・

学力試験すら心配で・・・

ギリギリでもいいから

とにかく滑り込みたい!

医官の免許証が欲しいわ

 

 

ソラの隣で勉強していた

お茶屋の娘メイが

困った顔で

ボソボソと言った

 

 

さあさあ

お二人とも

アワビ粥で力をつけて

頑張ってくださいな

私は二期生のみんなが

本当によく頑張っているのを

間近で見て来たんですから

自信を持って試験に

臨んでくださいまし

 

 

ソアは二人のところに

粥を運んでくると

優しくそう言った

 

 

二階で勉強している

サユナとレイにも

この美味しいお粥を

運んであげようかな

ソア様 いいかしら?

 

 

ケイが尋ねると

ソアは嬉しそうに頷いた

 

 

もちろんですよ

暦の上では春だけど

今宵は冷えますからね

お粥で温まってくださいな

 

 

寮の学生たちは

もはやソアにとって

娘のような存在だった

二期生が皆無事に試験に合格し

ここを卒業していけるようにと

ソアは心から願っていた

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

ワクワクドキドキした

その気持ちを忘れないで

新しい一歩を踏み出そう

 

 

桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜

 

 

番外編ということで

ウンス肝いりの

養成所の様子を

のぞいてみました

春は門出の季節ですね〜

 

またおつきあいくださいませ

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