噂の広がりは
ウンスが考えた以上に
早かった・・・
 
翌朝
武閣氏の長を引退しても
まだなお王宮の情報を
隅々まで把握している叔母
チェ最高尚宮が屋敷に来た
だが
思慮深い叔母は
子供達の前では普段と
変わらぬ様子を見せ
ヘジャの料理が食べたくて
朝餉を食しに来ただけだと
ユニョンに笑いかけた
その一方で
甥のチェヨンを
子供達から見えない場所に
誘い込んで詰め寄った
 
 
一体どうなっておる?
なぜユニョンが妃なのだ?
大妃様の気性を考えたら
これは嵐になる
王宮に波風が立つであろう
このようなことになる前に
なぜお前は
王様をお止めしなかった?
王様が口にしたことを
なかったことにはもうできぬ
これがどういうことか
わかるであろう?
 
 
ああ
叔母上に言われずとも
わかっておる
前触れなど何もなかったのだ
使節団が手渡した親書の中身も
それに対する王様の答えも
俺は事前に知る由も無い・・・
 
 
チェヨンは
小さくため息をついて 
天井を仰いだ
 
人質を差し出せでもなく
公主様を嫁に寄越せでもなく
王子様に自国の姫を
嫁がせたいという提案は
それだけこの国との関係を
確固たるものにしたかったから
に違いない・・・
決して条件の悪い話では
なかろうに王様はそれを断った

 

 

昔から

歯切れの悪いお方だった

王として何か

深い考えがあるのかも知れぬが

俺にはわからぬ

俺に言えるのはユニョンを
このようなことに
巻き込んでしまった後悔だけだ
 
 
ウンスは
なんと言っておる?
 
 
あの方はもともと
腹の据わったお方
この程度のことで
怯むような女人ではない
 
 
まあ
ウンスが落ち着いているなら
子供らも大丈夫だろう
それにしても困ったものだ
大妃様から呼び出しを受けた
王妃様からも呼び出されている
どちらかだけを
立てるわけにもいかず
どちらにも
いい顔をするわけにも
もちろんいかぬ・・・
子供らの結婚話など
まだまだ先のことだと
思っていたものを・・・
とにかく
探りを入れてくるとするか・・・
王様の真意はどこにあるのか?
 
 
叔母はげんなりした顔で
甥にそう告げると
王宮へ向かった
 

 

ーーーーーーーー

 

 

針房(チムバン)の

ホン尚宮は

朝から頭痛がしていた

徹夜明けの針仕事の疲労に加え

朝の挨拶に伺った折の

大妃様の機嫌の悪さも相まって

ぐったりしていた

 

「ホン尚宮様のようになりたい」

と 夢見る見習い女官のミホが

心配そうに白湯を運んで来て

なんだかんだと世話を

焼いてくれている

 

早いものでミホは今年十二歳

あと数年で見習い女官から

正式な女官として

独り立ちできるだろう

針仕事の腕も相当上達し

しっかりと成長している

 

ホン尚宮は

そんな我が子同然の

ミホの成長が嬉しい反面

自分の老いを感じずには

いられなかった

 

このところ

細かい針仕事をすると

すぐに目にくる

そして

肩が凝り頭が重くなる

そんなに無理をした

つもりはないのに

体が悲鳴をあげるのだ

若い頃はどれだけ徹夜で

仕事をしても

疲れなど感じたことも

なかったというのに・・・

そんな自分が不甲斐なくて

ホン尚宮は

眉間にシワを寄せた

 

 

だからあとは他の女官に

任せてくださいって

言いましたのに・・・

ホン尚宮様

また睡眠時間を削って

お一人でお仕事をされた

のですね

 

 

ミホはぷんと怒った顔で

言った

 

 

そう小言を言われると

余計に頭に響きますよ

ミホや・・・

大丈夫

薬も飲んだし 

すぐによくなるから

 

 

だけど〜〜

目を離すとすぐに

ご無理をなさるから〜

 

 

幼い頃から

かわいがってもらい

指導してくれたホン尚宮を

ミホは実の母のように

慕っている

だからこそ

心配で不安なのだ

 

 

はいはい

わかった わかった

けれど

仕方なかったのだよ

大妃様にとって

チェ家の方々は大事なお方

医仙様のためを思う

大妃様のお心を

ミホもよく

わかっているだろう?

 

 

それは

そうですけど〜

 

 

ミホはまだ不満顔だった

養成所虹四期生の

入学式に合わせ

ウンスに新しい衣を作り

祝いに届けたいと

大妃様から依頼を受けたのは

まだ雪深い頃だった

そこで針房では

準備を着々と進めていたが

完成間近になって

大妃様から

「医仙の誕生日も近いゆえ

もう少し豪華な品が良い」

と急な指示が入ったのだ

 

 

王妃様や公主様の

衣作りもあるのに

人手が足りません

ホン尚宮様ばかり

ご無理をなさって〜〜〜

いくら大妃様のご依頼でも

・・・

 

 

大妃様のお心を

わかって差し上げられるのは

若い頃から王宮で

苦楽を共にしてきた

私くらいだからねぇ・・・

どうか大目に見ておくれ

 

 

ホン尚宮はなだめるように

ミホに言い含めた

 

 

それにしても

困ったものだ

大妃様のご立腹は

収まる気配がないし・・・

王様はいかがなさる

おつもりだろうか?

 

 

大妃様の不機嫌の理由が

王子様の妃選びだと

知っているだけに

ホン尚宮は顔をしかめた

 

 

気分転換に庭園でも

歩いてこようか?

 

 

それはいいですね

では私は少しでも仕事を

進めておきますので

尚宮様はどうぞ

ゆるりとして来てください

 

 

ミホに促され

ホン尚宮は外に出た

部屋の中にばかりいると

息が詰まりそうになる

王宮の庭園はまだ木々も

雪化粧されていたが

すこぶる気持ちが良かった

 

 

ふっわ〜っ

 

 

大きく背伸びをして

大きく息を吸う

空が青く澄んでいて

何もかも優しく包み込んで

くれそうな気がした

 

 

これは

ホン尚宮殿・・・

ご無沙汰しております

年末には子供らに

素晴らしい晴れ着を

ありがとうございました

 

 

不意に懐かしい声が響き

ホン尚宮は後ろを振り返って

顔を赤らめた

そこにいたのは憧れの君

チェヨン上護軍

思い切り

あくびをしていたところを

見られたに違いなかった

 

王子様の妃選びの話が出た

翌日にもかかわらず

いつもと変わらぬ様子で

チェヨンはそこにいた

 

 

上護軍様・・・

いいえ 

気に入っていただけて

嬉しゅうございます

 

 

話しながらホン尚宮は

胸の奥でとくんと

音がしたのがわかった

いつ見ても美丈夫で

たくましく頼りになる男

たとえ

自分よりうんと年下だと

わかっていても

この胸の高鳴りを

ときめきと言うのだろうと

ホン尚宮は思った

 

 

ときめきなど

いい年をして・・・と

ミホに笑われるだろうか?

だが

暮らしに潤いがあるのは

悪いことではなかろうし・・・

それに彼ならば

大妃様の機嫌が直るような

秘策を思いつくかもしれない

 

 

ホン尚宮がじっと

チェヨンを見つめていると

怪訝な顔で見つめ返された

 

 

如何なさいました?

 

 

今朝は案外冷えますね

今年は梅も遅いですし

 

 

ああ・・・梅・・・

梅の季節を

うっかり忘れておりました

 

 

チェヨンは懐かしそうな顔で

ホン尚宮に答えた

梅の季節に何か特別な

思い入れでもあるのだろうか

いぶかるホン尚宮に

ひょいと頭を下げて

 

 

では

某はこれにて・・・

 

 

チェヨンが大股で歩き出し

がっしりとした広い背中に

ホン尚宮はしばし見惚れた

そうして

雪景色の中にその勇姿が

見えなくなるまで

そっとその場に佇んでいた

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

幾つになっても

ときめきも潤いも

人生の大事なエッセンス

 

 

 

桜桜桜桜桜桜桜

 

 

 

明日は天気が荒れ模様の

ようですね

お気をつけくださいませ

またおつきあいくださいね〜

 

 

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