イサは朝から悶々としていた

本来ならば喜ばしい噂話に

違いなかった

だが 胸の奥にふつふつと

湧き上がる怒りを

感じずにはいられなかったのだ

たかだか噂話で

どうしてこんなに

心がかき乱されるのか

不安になるのか

自分自身を持て余してしまう

 

王家の後継と名家の姫が

婚約したらしいという噂は

王宮勤めの者たちの口から

民へと広がり

あっという間に下々まで

知るところとなっていた

 

診療所には

わざわざお祝いを言いに来る

患者や近所の者たちもいて

その対応に

イサは頭を悩ませた

 

 

よく

平然としていられますね

こんなおおごとになって

いるのに・・・

 
 
多少の嫌味を含めて
イサは恩師であるウンスに
突っかかる
 
 
まあ そうねぇ
でも広まった噂の火消しは
時が過ぎるのを待つしか
ないでしょう?
それに実際のところ
どう転ぶのか
正直私もわからないの
 
 
まさかユニョン姫を
王家に差し出す
つもりなのか?
 
 
憤慨したイサは口調を強めた
養父のチェ侍医も
この件のことをとっくに
知っていただろうに
イサに説明することは
今朝までなかった
イサは何も知らずに
診療所に来て
患者たちの口から聞いたのだ
その衝撃たるや
思った以上のものだった
 
 
差し出すって・・・
人質みたいな言い方は
よくないわ

私はね 子供達の将来を

親が勝手に決めたくはない

ってそれだけなの

それに

王子様のことを毛嫌いして

いるわけでもないわ

あの子はいい子だもの

賢くて思いやりもあって

だってウ王子は

ウネさんに育てられたのよ

まっすぐ育っていると思う

だから

もしもご縁があって

ユニョンが望むのであれば

それも

ありかも知れないなって

思っているのよ

 

 

ありかもって・・・
そんな無責任な・・・

 

 

ユニョンがイサの

お嫁さんになりたいって

言っているのは知っているわ

イサとしては複雑な

心境よね?

 

 

いや 

オレはそんなつもりで

心配しているんじゃなくて

それにユニョン姫の話を

真に受けるほどガキでもないし

 

 

うふふ

どおかしらね

ユニョンは一途だし

推しが強いからなぁ〜

あのね

イサ・・・

私にとってあなたも

大事な家族よ

 

 

大事な家族?

 

 

もちろん

弟子でもあるけど

家族でもあるの

だからこそなのよ

 

 

何が?

 

 

ユニョンの言葉に

イサが縛られる必要は

ないと思っているわ

将来のことを考えた時

恩がある家の娘だからとか

そんな風には

思わないで欲しいの

それにユニョンは

イサのお嫁さんとしては

今はまだ幼過ぎるわ

イサにはイサの運命の相手が

きっといると思う

それが

ユニョンかもしれないけど

まだまだ先すぎて

わからないじゃない?

だから

ユニョンの言葉に縛られたり

チェ先生が独り身だからって

遠慮しないで

いい人がいたら

さっさとお嫁さんを

迎えたらいいと思うのよ

私はイサにも

幸せになって欲しい

イサの未来は

これからですもの

 

 

いいや オレは・・・

誰とも結婚するつもりは・・・

そんな資格もないし・・・

 

 

ほら そうやって

自分のことすぐ否定する!

過去のことなんて関係ないわ

イサはもっと幸せになって

いいんだからね

まあ そう言うところ

昔のヨンに似ているかも

でも・・・

ユニョンのことは

心配してくれてありがとう

 

 

ウンスはそこで話を畳んだ

お祝いを述べる患者には

「単なる噂よ 

決まったことじゃないのよ」

と釘を刺し

届いた祝いの品は

すべて送り返し

この件についてウンスは

沈黙を貫いた

 

噂を聞きつけ

心配して飛んで来た

ポムやウネに対してさえも

「この件は夫に任せる」

と言ったきり

何も話さなかった

 

 

目の前のことに集中しよう

季節の変わり目で

患者も増えているし

養成所四期生の

受け入れ準備もあるし

入学式も近い

噂話に振り回されている暇は

ないんだから・・・

 

 

実際その通りに

ウンスは忙しかった

 

 

 

 

夜になって

屋敷に戻ったチェヨンは

ユニョンの様子を

一番に気にかけた

 

 

変わりはないわよ

いたっていつも通り

カン・ユハとタンが

ユニョンの耳に

余計なことが

入らないように

気にかけてくれたみたい

 

 

そうか・・・

だが いつまでも

そう言うわけにもいかぬ

明朝俺から

ちゃんと話をしようと思う

 

 

そお?

うん・・・

その方がいいわね

変な風に

他から話を聞くより

父親からちゃんと

聞かされた方がいいわ

で?王宮はどうだった?

 

 

好奇の目で見られるのは

慣れておる

だが大事な娘のことを

噂でとやかく言われるのは

我慢ならん

ユニョンが傷ついたら

相手が王様であろうと

俺は容赦せぬ

 

 

ヨンはそう言うと思った

でもユニョンは

あなたと私の娘よ

そう簡単にへこたれないわよ

芯の強い子だもの

それに私たちも全力で

あの子の心を守るでしょう?

 

 

ああ もちろん

 

 

それより王妃様と大妃様は

大丈夫かしら?

王様の一言で

嫁姑の関係が悪くなるとか

ないわよね?

 

 

イムジャは本当に人がいい

巻き込まれたのは

こちらの方だぞ

人の心配をしている場合か?

 

 

やれやれと苦笑して

チェヨンは

ウンスを抱きしめた

 

 

そう言う私に

惚れているくせに

 

 

図星だから

反論できぬ

 

 

チェヨンはウンスの唇に

チュッと口づけ微笑んだ

 

 

夜風に雪解けの

春の匂いが混じっている

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

思いだけでは

どうしようもないことも

世の中には

あるんだろうな・・・

 

 

桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜

 

 

桜の便りが聞かれる頃に

なってまいりましたが

なんだかあちこち

地震も多いですよね

今年の春が穏やかな春で

ありますようにと願います

 

またおつきあいくださいませ

安寧にお過ごしくださいね

 

 

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