歴史探偵 諏訪欧一郎の事件簿 戦国武将の名付け方 〔第三夜〕 | 李厳さんの独り言

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ケン太「先生、更新遅すぎだよ!」

諏訪「すまんすまん」

神崎「今回は、徳川家の通字の説明ですね」

岩田「では、行ってみようかの」






諏訪「えぇ、ではまず…神崎君、徳川将軍の歴代の名前を挙げてくれるかい」

神崎「はい、えぇっと…


初代 
2代 秀忠
3代 
4代 
5代 綱吉
6代 
7代 
8代 吉宗
9代 
10代 
11代 
12代 
13代 
14代 
15代 慶喜


岩田「ケン坊、判るかの?」

ケン太「うん、徳川将軍家は、『』が通字なんだね」


諏訪「そう、秀忠以外で『』以外の字を名乗った将軍は、

綱吉(家綱の弟で、家綱の後継)
吉宗(紀伊徳川家、家継の後継)
慶喜(一橋徳川家、家定の後継)

と、のきなみ養子である為、『家』はついていないが…」


ケン太「そう考えると、秀忠は一人だけ浮いた名だね」

神崎「確かに…」


諏訪「それは『木を見て森を見ず』というものだ」

岩田「松平家の歴代を挙げてみようかの」


初代 親氏
2代 泰親
3代 信光
4代 親
5代 長
6代 信
7代 清康
8代 広
9代 家康


ケン太「あれ? 松平家では『』が通字だったの?」


岩田「左様。 しかも親忠の4代というのは便宜上で…」


諏訪「親忠は信光の嫡男ではなく、分家して興した安祥松平家初代である為…」


神崎「安祥松平家では、むしろ『康』の清康と家康が、異端なんですね」


諏訪「その通り」





ケン太「先生、5代長忠って、『長親』の間違いじゃないの?」


神崎「確かに、寛永諸家系図伝でも三河物語でも、『長親』になってますね」


ケン太「将軍の先祖の諱を、誤って伝承する事なんてないんじゃ?」


諏訪「うん、〔誤って〕伝承する事はないだろうね」

ケン太「?? どゆ事」


岩田「先にも説明したように、家康の家は松平宗家ではない」


諏訪「でも江戸時代には、徳川将軍家が松平宗家だったと説明したいから…」


ケン太「なるほど! 安祥松平家から始まった通字『』よりも、初代親氏から名乗っている『親』を使った方が、嫡流っぽいもんね!」


諏訪「実際の長忠は、長親と名乗った史料が存在しない」


岩田「…厳密には、永正十二年(1515)十二月に妙心寺に出したとされる書状には、『長親』とあるが…」



一筆致啓上候、来春二月時分親忠殿法事、
取越可致候、貴僧者縁茂有之方ニ而候故、
申遣候、大樹寺与御申合可被成候、依之、
今年■申置候、恐惶謹言
 極月十五日     長親(御判)
  妙心寺様



諏訪「この時点で長忠は出家しており、同時代の他の史料でも『道閲』を名乗っているので、後世に書き直されたものとされているね」


神崎「他に例がない史料がある場合は、まずはその史料を疑えという好例ですね」







ケン太「ちなみにさ、松平家って『忠』にしろ『康』にしろ、通字を下に据える家のようだけど…」


神崎「どこかの誰かから、一字拝領って受けていたんですか?」


諏訪「う~ん、ちょっとよく判らないなぁ」

岩田「というのも、応仁の乱以降、幕府から三河守護に任命された者がいないので…」


諏訪「良い意味でも悪い意味でも、松平家が一字拝領できる上位権力がなかったんだよ」


ケン太「へ~」

諏訪「一応、家康の父広忠は、家督相続時に叔父信定に居城を逐われた際、岡崎帰還に尽力してくれた東条吉良持広の『広』の字を、一字拝領したとされているけどね」


岩田「それ以外は、ちょっと想像つかんの」







諏訪「えぇ…さて、そろそろ家康爺さんの依頼のまとめに入るとするか」


神崎「徳川将軍家に相応しい通字の候補は…

『康』…家康の偏諱。兄2人も名乗っている
『忠』…安祥松平家の通字。
『家』…家康の偏諱。但し家康以外に前例なし
『親』…松平家の通字。但し近い先祖に例なし
『信』…松平家の通字。但し織田家と被る

といった感じですか?」

諏訪「上等だね」



ケン太「普通に考えれば、『康』かなぁ」

岩田「ほう、何故じゃ?」

ケン太「だって、本来の嫡男である信康は『○康』じゃん?」


諏訪「だが、それでは家康爺さんが相談してきた意味がないだろう?」


ケン太「へっ? 何で?」

神崎「家康さんは、天下人になったのよ」

岩田「つまり、今後は臣下たる諸大名に、一字拝領を許す立場になる訳じゃから…」


諏訪「通字が頭に来るように依頼してきたんだから、『○康』はない」


ケン太「って事は、『○忠』もない訳だね」

諏訪「そうだな」

神崎「『親』や『信』は、ちょっと唐突過ぎる気もしますね」




岩田「やはり歴史通り、江戸幕府を開いた初代の家康の『家』で、『家○』という形しかないじゃろう」


諏訪「一応、余談だけど…」

ケン太「ん?」


諏訪「家康の爺さんは、天下人になって後に、自身の子で後に御三家を形成する三人の子供には、義直(尾張)・頼宣(紀伊)・頼房(水戸)と名付けているね」


ケン太「この諱の所以は?」

諏訪「徳川家が将軍になる際に、どこの系図に先祖を繋ぎ合わせたっけ?」


神崎「清和源氏新田氏の一族、世良田家です」


岩田「そう。新田氏の通字は『義』、世良田家の通字は『頼』なんじゃ」


ケン太「新田氏系世良田家の子孫を名乗った瞬間、通字をパクッた訳だね」


諏訪「まぁ、思いつきだったからか、将軍への忠誠を求めたからか知らないが、次の代からは将軍家から一字拝領した偏諱を頭につけるようになったけどね。 …では神崎君」


神崎「はい、家康さんにお繋ぎします」








諏訪「…という訳で、将軍家では代々嫡男には『家○』でいかれるのがよろしいかと…」


家康「なるほどの、ワシの考えとほぼ同じじゃ」

ケン太「本当かな?」

家康「そこの汚いガキも、少しは役に立ったのかの?」


ケン太「ガルルルルr…」


神崎「なぜ家康さんは、ケン太君に辛く当たるんですか」


家康「いやスマン。 実はその子が孕石主水の子供の頃にそっくりなモンで、つい…すまんかった、この通りだ」


ケン太「いいよもう。 さて、今夜の晩ごはんはどうしよう」

神崎「遅いから、ここで食べていきなさい。 ハンバーグを作ってあげるわ」


ケン太「わーい!」

家康「は……はんば…く…?」

ケン太「あれ? 家康さんハンバーグ知らないの? 天下人のくせに?」


家康「なっ…いや、…し…知っておるぞ…『はんばぐ』くらい……お、美味しいよね?アレ…」


ケン太「ふ~ん、じゃあ……鯛の天ぷらは?」

家康「なんと! 鯛を天ぷらにっ!?」

ケン太「あれ? もしかして…」

家康「いやいや、…実はちょうど今晩食べる所じゃったよ」


ケン太「ふ~ん、良いなあ。 天下人だから、いっぱい食べられるんだろうな~。 うち貧乏だから…」


家康「ニョホホホホ、左様! 今日はいっぱい食べるぞい! ではの、欧一郎。 また連絡する」



…ガチャン………ツーツー…








ケン太「ゲハハハハハ、愚かなり東照!」

岩田「貴様の血は何色か?」

神崎「良いんですか先生? 家康さん死んじゃいますよ?」


諏訪「まぁ、問題ないだろう。 どのみち家康爺さんは、家光らの元服を見れずに没してるから…」


神崎「天命だと?」

諏訪「そういう事だ。 …じゃあガンさん、家賃は近いうちに払うんで…」


岩田「ほいほい、じゃあまたの」

諏訪「今回はこれで解決&解散!」

2人「お疲れ様でした~」



~終~