抗リン脂質抗体 | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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抗リン脂質抗体
 

国際基準では、抗カルジオリピンβ2 グリコプロテインI(CLβ2 GPI)複合体抗体、抗カルジオリピン(CL)IgG 抗体、抗カルジオリピン(CL)IgM 抗体、ループスアンチコアグラントのいずれか一つ以上が陽性で、12 週間以上の間隔をあけて再検査しても、再度陽性となる場合と定められています。


したがって、陽性となった際は12 週間以上の間隔をあけて再検することが必要です(4-1)。


陽性が持続した場合、抗リン脂質抗体症候群と診断され、陽性から陰性化した場合、偶発的抗リン脂質抗体陽性例と診断されます。



[不育症選択的検査]
 以下の検査は、不育症のリスク因子として、確実な科学的根拠があるという段階には至っていませんが、不育症との関連性が示唆されている検査です。


患者さんの状況等に応じ、実施が検討されます。

 ① 抗フォスファチジルエタノールアミン(PE) 抗体
  ・抗PE 抗体(IgG 抗体、IgM 抗体 )(※)
 ② 血栓性素因スクリーニング(凝固因子検査)
  ・第Ⅻ 因子活性
    妊娠初期の流産を繰り返す方に、第Ⅻ 因子欠乏症が認められる場合があります。
  ・プロテインS 活性もしくは抗原

   妊娠初期流産、後期流産もしくは死産を繰り返す方に、プロテインS 欠乏症が認められる場合があります。
  ・プロテインC 活性もしくは抗原
   頻度は低いが、不育症例の一部に低下する症例があります。
  ・APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
    抗リン脂質抗体症候群や血栓性素因のある方では、APTT が延長する場合があります。


※ 抗PE 抗体の取り扱い
抗PE 抗体は、測定法、病原性の評価が定まっておらず、国内外の抗リン脂質抗体症候群の診断基準にも含まれていません。

従って、抗PE 抗体検査は研究段階の検査です。厚生労働科学研究班(齋藤班) でも、抗PE 抗体の病原性については、意見が一致していません(4-2、4-3)。

最近の知見(4-4) によると、抗PE 抗体の中には病気の原因になるタイプと、ならないタイプがあることが判ってきました。

いずれにせよ、抗PE 抗体の取扱いは研究段階であり、抗PE 抗体のみが陽性である場合、それだけで過去の流産の原因であると診断し、治療を行うべきということにはなりません。



4-1) Report of the Obstetric Task Force: 13th International Congress onAntiphospholipid Antibodies , Lupus 2011 ; 20 : 158-164.


4-2) 齋藤滋, 田中忠夫, 藤井知行 他. 本邦における不育症リスク因子とその予後に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業. 不育症に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究. 平成20 年度~ 22 年度総合研究報告書. 2011. PP49-5


4-3) Obayashi S, Ozaki Y,Sugi T, Kitaori T,Suzuki S, Sugiura-Ogasawara M.  Antiphosphatidylethanolamine antibodies might not be independent risk factors for further miscarriage in patients suffering recurrent pregnancy loss. J Reprod Immunol, 2010 ; 85 : 186-192. 16


4-4) Katsunuma J, Sugi T, Inomo A, Matsubayashi H, Izumi S, Makino T. Kininogen domain 3 contains regions recognized by antiphosphatidylethanolamineantibodies. J Thromb Haemost. 2003 ; 1 : 132-138.



(日本産婦人科学会のHPのこちらの記事 から引用しました。)