『モールス』
本作『モーリス』は、スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のハリウッド版・リメークである。
どちらを先に観たかによって評価が分かれるであろうことは、リメークの宿命として避けられないであろう。
で、ぼくはと言えば、オリジナルの方の『ぼくのエリ 200歳の少女』は観ていない。
理由はただ、邦題がいけてないということだったのだけれども、それはそれで僕にとって幸せなことであった。
それではなぜこの『モーリス』を観たのか。
それは、前作『キックアス』でのクロエ・グレース・モレッツの演技に、強烈に魅かれたからだ。
思えば『キック・アス』も、観るのにとても苦労した。
上映館が極端に少なかったのだから。
ブラッド・ピットがプロデュースし、ニコラス・ケイジが主演したにも関わらず…
しかも本国アメリカでも大ヒットし、日本での評判も高かったにも関わらず…
これはR18指定であったことによるものなのか、それともシネコン主体の興行の弊害なのか。
この『モーリス』もR指定となった。R15ではあるけれど。
で、東京の上映館はなんとたったの4館!
新宿、六本木、お台場に、西新井のみ…
埼玉県なんて0(ゼロ)ですよ、考えられないっ!
なぜここまで文句を言うのかといえば、
ただこの映画が素晴らしかったからですよ。
もっとたくさんの方々に観てほしい。
雪降るニューメキシコの山間部。
閉ざされた田舎町-。
でもそこにに人々が住み、学校があり、
思春期を迎える子供らが集う。
笑いがあり、出会いがあり、いじめもある。
それはそれで、あたりまえのように。
時代設定は、1983年。
ぴんとこないかもしれないけれど、今とは違って携帯電話のない時代。
それがうまく効いている。
題名の、モールスだって。
人々が住み、営みがあり、
そしてそこに変化が…
とても大きな変化があって、
事件が重なり-。
何といっても、アビー役のクロエ・グレース・モリッツが、素晴らしい。
オーウェン役のコディ・スミット=マクフィーも、もちろん負けていない。
警官役のイライアス・コティーズも渋くていい演技だなぁ。
さらに、リチャード・ジェンキンスの演技には…涙すら流してしまうほど。
「オーウェンとは、二度と会うな。」
これは嫉妬ではないんだ。
自分自身の運命と、
そしてオーウェンの、これからを…わかってしまっているのだから。
ラストシーンが、美しい。
そう思えるのは、
マット・リーヴス監督ならではの、こだわりの演出がなせるわざだろう。
哀しさと、儚さと、
愛おしさと、力強さ…。
無謀さと、誠実さ、
残酷さと、純粋さ…。
思春期という、限られた人生の一時期に内包し、
類まれに、それらを抱え続けているひとがこの映画に出会えたならば、
その素晴らしい幸運をぜひ享受いただきたい。