『ヒミズ』
園子温監督には、『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』と、作品が発表される度に驚かされてきた。
もちろん、これらは全て映画館で観てきた。
映画とは、お金を払ってチケットを購入し、映画館へ自らが足を運び、そして劇場の大きなスクリーンで観るものだ、という当たり前のことがあまり当たり前でなくなりつつある時代に、改めて映画の、邦画の醍醐味を教えてくれるのが園監督だ。
さて、これまでオリジナルにこだわってきた園監督が、初めて原作のある映画を撮った。しかも10年前に発表され、世の中に衝撃と称賛をもって迎えられた古谷実の同名コミックの実写版として―。
園監督はインタビューの中で、原作に感銘を受け何度も繰り返して読むほどのファンであったこと、そしてこの『ヒミズ』で“現代の青春像”を描きたかったからだと、映画化を思い立った理由を語っている。
そう、これは明らかに…青春映画なのだ。
大人には未だなりきれていない、でも必死に大人になろうとしている子供たちの、精いっぱいの懸命な姿を描いた、青春映画なのだ。
この映画を成功へと導いているのは、何と言っても主役ふたりの渾身の演技に他ならない。
オーディションにより主演に選ばれたという染谷将太と二階堂ふみが、期待に応え…否、期待を大きく上回る体当たりの演技で、観客を最初から最後まで強力に引きつける。
重々しくも切ない、限りなくドロドロとした現代社会の中で苦悩し、溺れそうになりながら泳ぐ、ピュアな思いとなって、ぼくらの心にずしんと突き刺さるのだ。
ふたりはヴェネチア国際映画祭で最優秀新人賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)をW受賞した。快挙である。
けれども例えふたりが受賞していなかったとしても、彼らの輝きは変わらない。
それは園監督が、彼ならではの演出で引き出した、ほとばしるほどの若い生の叫びなのだ。
ふたりともどこかで観たことがあるなと思ったら、染谷将太は『東京島』に 、二階堂ふみは『ガマの油』に 出演していた。これからが楽しみな俳優である。
チーム園子温ともいうべき、園作品では常連の俳優陣の演技も冴えわたる。
『冷たい熱帯魚』で日本No.1の悪役との評価を得た?!でんでん、吹越満と神楽坂恵は(あの後こうなったの?!と想像もさせる)再びの夫婦役、などなど…
『紀子の食卓』で映画デビューの吉高由里子、『愛のむきだし』で初主演の西島隆弘(AAA)が出ているのもうれしい限り。
加えて、窪塚洋介、村上淳、鈴木杏も、好演だ。
◆
園監督本人が語っているように、オリジナル脚本の作品ではないことから、ここのところの作品群とはかなりテイストが異なる。戸惑うファンもいるかもしれない。
また本作品は、3.11東日本大震災を受けて、脚本および設定の変更を行っている。かなりリスキーともいえるが、「どんなことをしても、震災を映画の中に取り込まなければいけないと思った。」という園監督の思いが急きょの変更への決断となった。
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