【小説】夏の牛乳 | 谷町 邦子★荒野のこぼれんぼう

谷町 邦子★荒野のこぼれんぼう

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畳に腰をおろしデニムのショートパンツから脚を投げ出す。
プールの後は体の内っかわが熱い。鼻先は冷たいのに唇はひりひりする。
腹筋するみたいに上半身を起こし、テーブルに腕を伸ばすとガラスのコップで牛乳を飲む。
冷たさと甘さを口の奥に流れていく。
ミッフィー柄の小皿に入った動物ビスケットをつまんだ。ほんのり塩味だ。
コップに目を移すとマイメロディのうさぎが白い汗をかいていた。
コップの表面を舐めたら薄い牛乳の味がした。

居間でお母さんはおやつを食べる私の隣で洗濯物を畳んでいた。
テレビは繁華街の映像を流しながら誘拐された同い年の女の子の話をしていた。
ミニスカートだったらしい。

近頃の女の子は怖いよ、と茶髪のオールバックのおじさんがしかめ面で言い、
大人とかわらないですしね、と司会者のおじさんが頷いた。
言い方は怒っているのに口元が笑っていた。

お母さんは「あんたはこっちの方がいいでしょ」と手を止めチャンネルを変えた。
プリィキュアたちがミニスカートをひらひらさせながらキックやパンチを繰り出していた。
「お母さん私もうプリキュア見ないよ。5年生だから」
お母さんは返事をしないで洗濯物を畳み始めた。
「お母さんみんなは何が怖いの?」
お母さんは私の方を見もせずに噛みつくように言った。
「そんな風に脚を見せることよ!」

私は慌てて正座した。赤く焼けた太ももをキティちゃんのTシャツを伸ばして隠した。
口の中に少しだけ残っていた牛乳とビスケットが苦くなった。

             ※2013年2月に執筆、2015年8月に部分的に書き直しました。