ツキのある・なしは運命か、はたまた神の気まぐれか――? 運を味方にできるのはどんな人なのかは誰もが興味のあるところだ。『科学がつきとめた「運のいい人」』の著者・中野信子さんは「脳にも個性があり、使い方があります。“運がいい”とされる人たちには、科学的に説明がつく行動パターンや脳の使い方があることがわかってきました」と話す。 

そもそも、人間の脳には、持って生まれた特徴があるという。セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の量には個人差があり、さらにそれらの分解の度合いによっても、脳の個性が異なってくる。例えば、セロトニンの分泌量が多い人は安心感が強く、反対に少ない人は不安を感じやすい、といった具合だ。

「安心感が強ければいい、というわけではありません。逆に楽観的になりすぎて、先を考えない行動をとってしまいがちとも言えます。不安になりやすい人は、先を見通す力があり、大ケガをしないというメリットもあるのです」(中野さん、以下同)

このように、自分の脳の特徴を自覚できれば、ある程度行動をコントロールすることはできるが、生まれつきの脳の個性をがらりと変えることは不可能だ。そこで、脳の使い方を変えることで、運のいい脳に変えられるという。

「一般的に、運・不運は誰の身にも公平に起きていることです。運のいい人は、単に恵まれているのではなく、運をキャッチするのがうまい。それと同時に、不運を防ぐような行動や考え方をしているのです。その第一条件が“自分を大事にしている”という点ですね」 

自分を大切にするとは、他人の意見に惑わされず、自分の価値観をしっかり持っていることを指す。これを中野さんは「幸せのものさし」と呼んでいる。人間の脳内には、快感を感じる報酬系という回路があり、人助けなど社会的な行動も含め、自分が気持ちよい行動をとると活動する。常に「快」の状態を作り出せる人は、理想の自分と実際の自分が一致している人。つまり自分が好きな人。こういう人は余裕があるため、人を惹きつけ、人から好かれるという。

また、運がいいことを口に出して言うのも脳科学的に有効だ。

「心の中で『ラッキー』と思うよりも、実際に『運がいいぞ!』と口にしたほうが、多くの感覚器官が働き、記憶が強化されやすくなります。声に出せば『自分は運がいい』と脳に定着しやすいのです」 

逆に、自分を粗末にしている人は、絶対に運に恵まれないと断言する。「自分にはできっこない」と決めつけている人、意見が対立した時に無条件で必ず折れてしまう人などは要注意だ。

「ゲームから降りればラクですが、それは、脳の使い方の習慣として非常によくありません。自分で何も決められなくなってしまいます。そういう人は、もしラッキーなことが起きても気づくことすらなく、気づいたとしても誰かにむしり取られてしまうんです」

かといって、無理やり「自分はできる!」と思い込ませればいいというものでもないらしい。

「意志と想像が真逆にある場合は、必ず想像のほうが勝ってしまうんです。これは“努力逆転の法則”というメジャーな法則です。例えば、悪いことが起きそうな予感がする時、『きっと大丈夫』と言い聞かせても必ず失敗するものです。ビジネスの場では、かなりシビアなシチュエーションに置かれることがあるでしょう。そういう時は『どうしよう』という不安な気持ちと真正面から向き合う勇気が必要です。不安を書き出したほうが、本来の実力を発揮できるというアメリカのデータもあります」

職場の人間関係――特に周囲の人に恵まれているか否かは、ビジネスマンの運・不運を決定する要因のひとつ。そこで出会った人の考え方は、想像以上に脳に大きな影響を与えているからだ。

「ですから、成功している人や、この人みたいになりたいと思う人の真似をすべきです。持ち物や使う言葉、企画書の書き方、食べ物、何でもいいのです。そのうちに脳の回路も似てきて、『あの人なら、この場面でどう決断するだろう』ということまでわかるようになってきます。ただし、脳の使い方は1日では変わりません。新しい回路ができるのには少なくとも3週間かかるとされていますから、意識して3週間続けるといいでしょう」 

大事なのは、なりたい自分に近づいていくことだ。

「尊敬するのが一番難しいのが、自分なんです。自分を心から好きになれた人こそ、運がいい人なのだと思います」(DIME)