はーーーっ、結局　悩みに悩んだ末　選べなかった・・・

 

 

あたりはすっかり暗くなっていた。

 

今夜の料理は　大ちゃんがデリバリーを頼んでくれているから心配ない。

 

僕は　白ワインを買いに出て　ふらりと足を伸ばして　チョコの専門店を回ってみた。

 

とは言えど　結局店内には入らず　外から眺めているだけだったんだけど・・・

 

ネットで注文しようかとも数週間前から携帯とにらめっこもした。

 

でも　どれもいまひとつぴんと来なくて　とうとうバレンタイン当日を迎えてしまっていた。

 

 

「香水は・・・すんなり決まったんだけどなぁ・・・」

 

 

少し女性の香りのような　甘い甘い香水。

 

さわやかなのと比べてみたけど　大ちゃんには甘い香りをつけていてもらいたかった。

 

 

・・・「虫除け」・・・なんだけどね

 

 

くすっ、と僕は笑ってしまう。

 

大ちゃんに彼女がいるんじゃないか、と　スタッフや周りの人に勘違いしてもらえば　少しは安心というものだ。

 

なんといったって　優しくて人当たりが良くて礼儀正しく　格好いい僕の彼。

 

心配する事なんてないんだぞ、と囁いてくれるけど　心配するに決まってるじゃないか・・・

 

もし　本気で「好きです」なんて言われたら　大ちゃんが断るのはわかっている。

 

それで　相手を思って心を痛めることも　僕の心配もすることも理解してる。

 

僕だって　申し訳ないと思うけど　大ちゃんと離れることなんてないし・・・それなら　最初から「匂わせ」してたほうがいいんじゃない？

 

それが　僕の出したいちばんみんなが傷つかない結論だった。

 

 

・・・モテすぎる彼氏を持つと大変だよ

 

 

そんな彼氏に送るチョコも　もう何度目か・・・

 

高級チョコはもう今更な気もするし　カロリー制限している大ちゃんにホールチョコケーキは・・・と　悩んでしまって　お昼に外に出たのに　太陽は沈んで　寒くなってきた。

 

 

「いけない・・・っ、大ちゃんも帰ってきてるじゃん」

 

 

携帯を見ると　「帰ったぞ」とのLINEがチラリ・・・

 

それと「ミネラルウォーターを買ってきて」との文字と　お願いのスタンプ。

 

僕は　コンビニに入って　ふと足を止めた。

 

 

「懐かしい・・・」

 

 

一番最初に僕がもらったバレンタインのチョコが　そこには鎮座していた。

 

幼稚園の僕。

 

母さんがいつも「虫歯になるから」と甘いものを控えさせてたのに　その日は「今日は特別」とてのひらよりも大きなハートのチョコをくれた。

 

 

「今日は　大好きな人に贈り物をする日なの。日本じゃ女子が男子にチョコをあげる風習だけど　外国じゃ　男の人が好きな女性に花を贈るんですって・・・」

 

「・・・・・・僕もお母さん・・・大好き」

 

 

「そのチョコは「大好き」のカタチなんだよ」

 

「・・・・ハート？」

 

 

「そう・・・、それはきっと万国共通」

 

「・・・・・ら、来年は僕がお母さんに花を贈るね」

 

 

そう言うと　母さんは嬉しそうに微笑んだんだ。

 

思い返すと懐かしい。

 

 

「よし、今年はこれ・・・。値段じゃない、僕の思い出」

 

 

ふふ・・・と笑って　僕は　そのチョコを掴んだ。

 

むかしはもっと大きなチョコだと思ってたけど　大人になったいまでは小さく感じる。

 

ま、このご時世　本体もあの頃よりは小さくなってるかもしれないけど　僕の手が大きくなったということにしておこう。

 

 

「あ、忘れるとこだった・・・。水、水・・・」

 

 

僕は　慌てて水も一緒に購入すると　家路に着いた。

 

大ちゃんに話す思い出話ができた。

 

小さなチョコと　大きな愛の話。

 

僕の初めてもらったバレンタインチョコの話。

 

 

甘いチョコよりも　大ちゃんは　僕の話の方が嬉しいって言うんだろうなぁ・・・

 

 

そして　僕は　甘いチョコよりももっと甘い大ちゃんが好きと感じるんだ。

 

 

今日もいつもの日常の延長戦。

 

大ちゃんといっしょに　甘い時間を過ごす・・・そんな気がした。

 

 

 

rさん

 

バレンタインプレゼントありがとう・・・

 

きょう、食べまーす♪(●´艸`)ﾑﾌﾌ

 

今日まで取っておいたの｡♥｡･ﾟ♡ﾟ･｡♥｡･ﾟ♡ﾟ･｡♥｡