きみと僕の長い物語 | 花の兎 雪の兎~オリジナルと2次元 2.5次元BL~

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日々のあれこれ、気ままに創作、なんでもありのブログかな?

僕は 空を漂う雲だった

 

広い空をぼんやりと漂って ただそれだけの存在だった

 

そして そんな僕をいつも照らしてくれる輝く太陽を見つめているだけだった

 

太陽は 暖かくて優しくて 僕は彼を見ているだけで癒され

 

そして 僕は 彼のもとに近づこうとして 大気に消えていった

 

 

 

 

僕は 冷たい水の中を泳ぐ魚だった

 

きらきらと輝く水面に映るのは 自由に羽ばたく鳥だった

 

限られた水の中でしか生きていけない僕は そんな鳥に恋焦がれた

 

自由に羽ばたく美しい姿

 

この水の世界から鳥の姿をただひたすら見つめていることしかできなかった

 

そして 僕は いつしか時の中に姿をなくした

 

 

 

僕は 広い草原に漂うたくさんの雑草の中の一本だった

 

小さくて地味な花を咲かせた僕に ひらりと蝶がキスをして去っていった

 

とてもきれいな蝶だった

 

僕は ずっと蝶がまた訪れるのを待つことしかできなかった

 

もし 僕が 蝶だったら 待つだけなんてしたくない

 

勇気を出して 一緒にこの世界を飛んでみたい

 

そう思いながら 僕はずっと動くことができない雑草だった

 

 

 

 

 

 

 

「・・・タクミ?」

 

「・・・・・・ギイ・・・」

 

 

「怖い夢でも見たのか?」

 

 

僕の目元を温かな指先で拭いながら ギイは心配そうに顔をのぞき込んでいた。

 

どうやら僕は泣いていたらしい。

 

 

「・・・・・・夢・・・かな。悲しい、寂しいそんな夢」

 

 

よく覚えててはいないけど 僕は いつも何かに憧れ その憧れとは一緒に生きていけなかったような 虚しさだけを覚えいている。

 

 

「ギイ・・・」

 

 

僕は そっとギイにくちづけると 彼を抱きしめた。

 

 

「おいおい・・・、甘えん坊だな」

 

「きみと触れ合えるって・・・こんなに幸せなものなんだな、て・・・」

 

 

「どんな寂しい夢を見たんだよ」

 

「思い出したくないな、というか 覚えてない。ただ きみが大好きなんだって・・・こうして一緒にいられることは奇跡なんだって感じる」

 

 

「すごい告白・・・。俺もだよ。さ、もう少し寝ろ」

 

 

そう促して ギイは僕を両腕で包み込む。

 

 

「・・・ん・・・、こんどは幸せな夢を見る気がする」

 

 

そうして僕は 幸せに包まれながら 眠りに落ちた。

 

 

 

 

 


僕は・・・僕の夢を見た。

 

年を取って手の甲も皺を刻んでいて ひとり海を眺めていた。

 

 

「おい、風邪ひくぞ。そろそろ中に入れよ。夕飯を作ってるぞ」

 

「ありがとう、ギイ」

 

 

その声に振り向くと ペンションのデッキで ギイが僕を呼んでいた。

 

僕と同じくらい年を取って それでも変わらず優しい笑顔と眼差し。

 

 

・・・幸せだな

 

 

ずっと 僕は 幸せだと感じて生きてこれた。

 

きみと出会ってから きみとふたりで幸せになって きっと このさきの短いだろう時間のその時まで 僕は・・・

 

 

きみを愛しているよ