書きなぐり | 花の兎 雪の兎~オリジナルと2次元 2.5次元BL~

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日々のあれこれ、気ままに創作、なんでもありのブログかな?

「終わったな」

 

ぽつり、と綾人は言った。

 

地面に横たわる男は もうただの器でしかない。

 

あれほど 生に取りつかれ たくさんの命を蔑ろにした男の末路は ふつうの人間と同じで「死」だった。

 

「だが・・・まだここが終着点じゃない」

 

淡々としたタキグチの言葉に 珍しく綾人は「あぁ」と小さく答えた。

 

「と、いうことで・・・、お別れだ。律」

 

「・・・え?」

 

「ついでに マオと渡辺博士もな」

 

「なに言ってるの? 綾人さん」

 

律とマオは驚いた表情を露わにして綾人を見た。

 

「・・・お前らと暮らした数年間、楽しかったよ。だけど こっから先は・・・足手まといなんだよ」

 

綾人は いつもの飄々とした笑顔で言うと ふっ、と右のくちびるの端を上げた。

 

「俺は タキグチとdoctor.yunと行く」

 

「・・・何を言ってるんですかっ。俺はあんたと行きます」

 

「だーかーらー、足手まといについてこられたら こっちの目的をヤル前にやべぇんだよ」

 

「俺はあんたのためなら死んでもいい」

 

「うるさいっっ」

 

律の声を遮って 綾人は声を荒げた。

 

「そういうのはもうお終いだ。実力の差はわかるだろ? マオ・・・、お前も置いていく」

 

「・・・・・・綾人さん・・・、僕も・・・一緒に」

 

そう言いかけたマオだが 綾人の胸の内も手に取るように分かった。

 

彼が言うように いくら訓練されて育ったとは言え 実戦経験は彼らの比ではない事くらい マオは理解している。

 

そして 常人よりも強くても 律はふつうに育った人間であり 大輔はそういう世界に身を置くことがない人間だ。

 

「・・・決めてたの?」

 

マオはそう綾人に聞いた。

 

「これが終わったらな、本格的に動かないと 俺たちも年を取っちまうしなぁ・・・」

 

ふざけたように綾人は答えたが 表情はまじめだった。

 

「・・・・・・カナタさんたちは・・・?」

 

「あいつらは「こっち」だ。お前たちとリュウとユウは・・・「あっち」の世界に戻れよ」

 

「・・・・・・」

 

マオは 涙をこらえることができずに泣き出した。

 

自分がなにを言っても 綾人は首を縦に振らないだろう。

 

いままで人生のほとんどを自分を守るために生きて来た綾人が 自分を突き放す。

 

それは 自分を思ってのこと、そして 自分が成長したのだと綾人は認めてくれたのだ。

 

「俺は・・・無理です」

 

「律・・・、俺はお前の盾なんかいらねぇ。守るものが多いと本当に面倒くさいんだよ」

 

「・・・・・・綾人さん」

 

「俺が初めて愛して・・・ずっと愛している男だ。情けない姿は見せんなよ」

 

綾人は必死に笑顔を作っているかのように見えて 律はぎゅっとこぶしを握り締めて 彼に伸ばしたい手を引き止めた。

 

縋りついて置いていくなと泣き言をいうのは 綾人を苦しめてしまう。

 

わかっている。

 

律は苦渋の決断をして 自分のもとを離れると綾人が言ったのが分かった。

 

なぜなら いつも人を小ばかにしたような瞳の綾人の頬に 一滴の涙が落ちたのだ。

 

感情もなにもかも押し殺すよう育てられた彼が隠せない深い愛を 律は感じた。

 

そんな姿を見せられて どうしてこれ以上 彼を引き止めることができるだろうか?

 

彼についていくには自分は釣り合わない。

 

それなら・・・と 律は閉ざしていた口を開いた。

 

「いつでも帰ってきてください。俺は・・・あんたにふさわしい男になるように努力します」

 

「はは・・・、帰ってくる保障なんてないよ」

 

「それでも待ちます。あなたの許可はいらない。俺が待っているということだけは心にとどめておいてください」

 

「・・・・・・わかったよ」

 

抱きしめたい。

 

だが 抱きしめたなら もう離すことがいできない。

 

律は その場に立ち尽くしたまま 後ろを向く彼の背中を見つめた。

 

「・・・たまには帰ってきてやっから いい子で待ってなよ。律もマオも・・・。あと 博士、マオを頼んだ」

 

「・・・・・・わかった」

 

黙って見ていた大輔は 深く頷き マオの肩を抱き寄せ「ちゃんと見送りなさい。綾人くんを」と言った。

 

そして 綾人の前方にいたユウキとカナタは彼らに軽く会釈をして歩き出し タキグチとyunは一瞥もせずに進んでいく。

 

「・・・・・・なぁにが「こっち」とか「あっち」だよっ」

 

「本当にふざけんなっ」

 

リュウとユウはそんな五人に怒鳴りつけたが 綾人は背中を向けたまま 右手を挙げて「ばいばい」というように手を振っている。

 

「・・・・・・俺たちは「ここ」じゃ終わらねぇ。確かに俺とユウの目的はここで終了だが もうこっちは足を突っ込んでるんだ」

 

「・・・だよな、それに俺たちは戦力外通知はもらってねぇし」

 

にやり、とリュウとユウは見つめあいながら笑うと

 

「俺たちも行くぜ。またな」

 

「こっからが本番」

 

とマオたちに言って走り出したのだった。