煌めく夜桜の歌 1 | 花の兎 雪の兎~オリジナルと2次元 2.5次元BL~

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1 タクミside

 

温かな腕に包まれて目ざめる朝。

 

僕は 名残惜しもながら その腕を掴んでベッドから抜け出ようとした。

 

だけど ギイは そんな僕をまたぎゅっと、と抱きしめてくる。

 

「ちょっと、離して、起きられないよ」

 

「まだいいだろ・・・」

 

澄んだブルーの瞳で僕を見つめながら 僕の額にちゅっとキスを落とすギイに 僕は欠伸を吐きながら言った。

 

「今日は出社するんだろ? 朝ごはん作らなきゃ」

 

「そんなの・・・出先で何とかするよ」

 

「だめだって。だって 僕がMrs.Susieの代理をするって宣言したんだから」

 

「だから 彼女の代わりにメイドを多く雇えばよかったんだよ」

 

「・・・だめ。Mrs.Susieの戻る場所は残しておきたいんだもん」

 

僕は 一生懸命 ギイの腕から逃れようとするけれど ギイは逆に腕に力を連れてきた。

 

この攻防戦になったのは3日前。

 

出来れば僕だって朝は弱いからまったりしたい。

 

でも Mrs.Susieが カナダに住む娘さんのところに行って 孫と会うために少しだけ長い休みを取ったのだ。

 

彼女はこの屋敷のほとんどの雑用をやってくれていて 僕たちには「お母さん」みたいな立ち位置で ずっと仕事を続けていてほしい。

 

まぁ、雑用に数人はメイドさんを雇いはしたものの 朝食だけは僕が作ることにした。

 

ちなみに夜は有名店のシェフが交代で来てくれるようにJさんが手配してくれている。

 

そんな何人も補充がいる仕事をMrs.Susieはこなしていたのだ。

 

「今日は味噌を取り寄せてあるから和食の予定。ギイはもう少し寝ていて」

 

「もう・・・、まったく言うことを聞いてくれないな」

 

「はいはい、てなんでも言うことを聞く僕が好きなの?」

 

僕の言葉に ギイは少しだけ口を歪ませ「タクミはタクミ。いつでも「いま」のタクミが好きだよ」と 諦めて腕を放してくれた。

 

「また起こしに来るから・・・。寝てて」

 

僕が言うと ギイは「わかったよ」とシーツを肩までかけて微笑んだ。

 

そのまま 僕はまた欠伸をしながら部屋から出ていく。

 

ずっとギイと抱き合っていたいのは本当だけど それだけじゃ満足できない。

 

僕がすることで ギイを喜ばせたり楽しませたりしたい。

 

贅沢に寄り掛かって暮らすだけじゃ物足りない。

 

与えたいものがある。

 

ふたりで共に生きているという日々の些細な証。

 

「味噌汁の具材は何にしようかなぁ・・・」

 

冷蔵庫の中を思い出しながら 僕が階段を降りようとしたとき

 

「・・・・・・え?」

 

僕は足を踏み外して そのまま転げ落ちたのだった。