有香ちゃんに事情を話す。
でもなぜか、
有香ちゃんは私たちを
睨みつけていた。
もう大人なんか信じない、
そんな目をしていた。
私たちもまだ母親業四年の
新米母たちだ。
小学生の彼女の気持ちを
汲んであげてはいなかった。

「有香ちゃん、
思う事があるなら、
ちゃんと口で言って。
きっと誤解をしているわ」
私からそう言ってみた。

「りん先生達はさ、
パパとママ、どっちの味方?
パパじゃなかったの?
何で今更ママなの!」
詳しく聞くと、
あの公開処刑に立ちあって、
私たちはママさんを
庇ってあげなかったと。
パパさんの
味方だと勘違いしていた。

「それは有香ちゃん、
誤解だよ。
おうちの事情はね、
いっくら仲が良くても、
他人が口を
出してはいけないんだよ。
どちらが良い悪いか、
本当の事はわからないでしょう?
私たちは、どちらの味方じゃない。
有香ちゃんの味方ではある。」
私はそう言って、
麗子さんも同じような事を伝えた。

「ごめんなさい...」
有香ちゃんは泣いてしまった。

「ううん、
私たちもごめんね。
大人の事情なんて、
まだ分かるわけないよね。
ちゃんと伝えておけば
良かったね。仲直りしよう」

「うん...
ママが一方的に悪いなんて、
かわいそすぎる....。
パパなんか今まで、
なんにもしてくれなくて、
怒鳴ってばっかりだったのに..」
とママさんを庇っていた。
そういえば、
杏ちゃんも同じ事を言っていた。
パパだって悪い。
今まで飲んで帰ってきて、
家のことは任せる、と言って
何にもしてこなかったくせに。
そう、随分前に言っていた。

「パパに言ってみたら?
有香ちゃんの本音を
伝えてみたら?」
麗子さんが言った。

「ダメに決まってるじゃん。
そんな事したら、
またママが責められる。
有香を洗脳したのか、
味方につかせようとしたのかって。
またママがいじめられる。」
続けて

「だから...だから...
黙ってるしかないんだよ。
パパからママは悪い事した、
有香を捨てようとしたと
聞かされても言い返さない。
パパ大変だね、つらかったね、
と嘘をつくしかないの。
でもそしたらママが、
あんなになっちゃって....」

有香ちゃんの号泣と、
奥底の本音を聞いて、
私たちは何にも言えず、
ただただ三人で抱き合った。

ママの為に、
嘘をついて、
パパさんに媚びを売る。
どんなにつらかったんだろう。
そして子ども、子ども、と
思っていたけれど、
こんなに大人のような
行動が出来るなんて、
私たちはそれに驚いた。