石持浅海『水の迷宮』(光文社文庫)


いやこれすごい、カタルシスが。アマゾンのコメント平均がやや低くてちょっと躊躇いながらの読書でしたが、終盤で明かされる事実のこう……光がいっせいに差し込んでくる「新しい世界」の感じ、これは本当に清々しかったです。思い切って読んでよかったー!


もとい、水の迷宮。舞台は水族館です。

3年前、深夜の業務中に不慮の死を遂げた片山。よりよい水族館をめざしてほぼ1人で努力し、過労死(おそらく)という結末を迎えた彼の命日に、事件は起こります。

「東京湾の汚染はひどいですね」

そっけないメールと、東京湾を模した水槽に仕掛けられた攻撃。器物損壊には至らない、けれどもスタッフ(人間)に大きな精神的ダメージを与える不気味な攻撃が断続的におこなわれ、飼育員の古賀たちを翻弄します。いったい犯人の狙いは? 片山が最後の夜に見回った水槽のトラブルと関連があるのか? 犯人はどこにいるのか?

そして古賀の前に現れた死体。なぜ殺人? 魚は殺さなかったのに。


警察に通報せず、お客さまの安全を確保し、自分たちでなんとか事態を収拾しようという論理、およびその論理に従いある種の「会議室」で推理を積み重ねて事件を解決に導く展開は、確かに頭でっかちで冗長です。人が死んでいるのにその扱いかよ、というアマゾンユーザーのコメントも、ほんとにその通りだし、自分で書いたにもかかわらず「犯人の手口は鮮やかだ」とか「彼の推理に感嘆した」とか褒めるのも読んでて居心地わるい。


でもそれを補ってあまりあるほど、彼らのたどりついた真相が壮大かつ映像美にあふれていて、気持ちよくなってしまって。第三セクターとしての水族館の立場やその立地、職員たちの経歴、信頼や敬愛をふくめた人間関係などすべてが伏線となって「そこ」へ回収されていく、その光景がどうしようもなく魅惑的で、たぶん作者もこの光景をえがきたくてミステリ部分を書いたのではないかと。そのためにあちこち言い訳がましい文章になったのではないかと推測します。


ミステリ部分の消化という点では、私は『温かな手』が最も好きですが、『水の迷宮』、この真相とラストシーンはどなたか実写化したらいいと思います。


 



水の迷宮 (光文社文庫)/石持 浅海
¥660
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