大島真寿美『ピエタ』(ポプラ文庫)

何年か前、たぶん単行本が出たタイミングでの書評を見たんだと思いますが、そのときから気になっていた作品です。未読の作家さんの初挑戦が単行本、っていうのはさすがにハードルが高いので、文庫化!祝!ありがとうございます^^

18世紀ヴェネツィア。舞台となるピエタ慈善院では、親が育てられずに捨てる赤ん坊を受け入れています。語り手であるエミーリア自身もピエタ育ち。今や中年にさしかかり、ピエタの事務方として信頼されているエミーリアが、ピエタの音楽、とりわけ少女だったエミーリアたちに合奏のよろこびを教えてくれた恩師ヴィヴァルディの生涯について語り、探り、たどりつく物語です。

先生としての顔。自分たちには見せなかった、べつの顔。見つからない楽譜。

文体がエミーリアの人柄を反映していて、だいぶ丁寧。たとえばいっしょにピエタで音楽を教わった理事の孫娘、とても裕福なヴェロニカに対して、エミーリアは幼なじみではあっても敬語を崩しませんし、地の文も礼儀正しく、おだやかに進んでいきます。物語の内容と文体、両方があいまってとても心地がよい作品だと思います(敬語と助詞が文法的に疑わしい部分は、確かにあるけれども)。

クライマックスで歌われる旋律、祈りに満ちて痛いくらい澄んだ響きに、目の前には紙と文字しかないんだけど音楽が琴線をそよがす風のように吹き抜けて、疲れや淀みが浄化されるのを感じました。こういうことがあるから物語はふしぎよねー


([お]4-3)ピエタ (ポプラ文庫 日本文学)/大島 真寿美

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