加納朋子『無菌病棟より愛をこめて』(文春文庫)

更新がだいぶ滞ってしまいました。みなさまお元気ですか。東京はだいぶ寒くなってきて冷え性の私にはつらい季節です。

さて、アマゾンで薦められていた加納さんの新作が文庫化。加納さんといえば映画化された『ささらさや』もそうですが痛みと温もりの魔法使い。心ゆさぶる日常ミステリの書き手として、私も長いこと大好きな作家です。

でもこれは、ノンフィクション。予想もしていなかった白血病による入院、治療、そして骨髄移植を受けてどうにか退院するまでの加納さん自身の日記です。弱っていく身体、面会もままならない子どもへの愛と申し訳なさ、憐憫。すごい額にのぼる医療費。

原則的には「あの加納さん」の感じで決して人を責めず、明るくいられるように努力しているのですが、そこはやはり重病人。たまに日付がとんだり、どうしても心で処理しきれず愚痴っていたり。いや、もっと愚痴ったり荒れたりしても不思議じゃないと思うんですけどね、若い研修医のゆきとどかない言動に傷つくのは当然だし、身体がつらいときに心だけぴんぴんしているわけないし。なのに気持ちが濁ったあと必ず反省する加納さん、えらいわ……

それから、闘病するご本人はもちろんのこと、夫(貫井徳郎氏)や実家の親きょうだい、骨髄を提供してくれた弟さん、そして中学に上がったばかりの小さなお子さんがそれぞれに悲しみつつ、いろんなことを我慢しつつ、加納さんの快復を祈っている様子がなんていうかもう、沁みる。病気は個人の身体の問題であると同時に、周囲の人々の生活や心にも影をおとしますね。彼らのもとへ加納さんが帰れたこと、本当によかったです。もちろんまだよれよれで苦しいコンディションでしょうけれど、こうして執筆して、私たち遠い読者にも声を届けてくださってありがとうございました。

なんだ後半、私信みたいになってるけど(知り合いでもないのに)。

無菌病棟より愛をこめて (文春文庫)/加納 朋子
¥713
Amazon.co.jp