☆体外受精前周期のピル(OC)のメリット•デメリット その1 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

体外受精の前周期にピル(OC)が用いられることが多いですが、メリットばかりが強調される一方でデメリットについてはあまり知られていません。Cochrane Reviewに記載されている驚きの内容をご紹介いたします。

Cochrane Database Syst Rev 2010; Jan 20: CD006109
要約:2008年までの全ての論文および学会抄録のデータをメタアナリシスにより分析しました。結論として、体外受精の前周期に何らかのピルを用いた場合の生産数は、用いない場合(プラセボ)と比べ増加しませんでした。むしろ、Antagonist法では、前周期にOC(エストロゲン+黄体ホルモン)を用いた場合、より多くのhMG/FSH製剤を必要とし(690単位増加)、刺激期間も長くなり(1.4日増加)、妊娠率が0.69倍に低下していました。しかし、Long法前周期に黄体ホルモンを用いた場合、刺激開始時の卵巣嚢腫が少なく(0.21倍)、妊娠率は1.95倍に増加しました。Antagonist法前周期にエストロゲンを用いた場合、より多くのhMG/FSH製剤を必要としましたが(207単位増加)、より多くの卵子が採取できました(2.0個増加)。その他の刺激法、前周期についてはその意義を評価できる十分なデータが得られませんでした。

解説:これまでの常識はGnRHaによるLong法やShort法の新鮮胚移植のデータに基づいていました。Antagnist法が登場し、さらに全胚凍結が行われるようになり、これまでの常識が覆される場面が出てきました。

Cochrane Reviewでは、上記のように、Long法では前周期にピルを用いた場合有効ですが、Antagnist法では逆効果という驚きの結果です。Cochrane Reviewは、現在普及している方法を急に変更すると混乱するので、このまましばらく様子を見ましょうという曖昧な表現をとっています。実際に日本でも、Antagnist法が主流となった現在も前周期のピルが非常に頻繁に用いられています。時代は変化(進歩)していますので、時代に乗り遅れないよう、むしろ時代を先取りできるよう(最先端を走るよう)にしていきたいものです。