☆精巣精子と射出精子はどちらが良い? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

極少精子症(cryptozoospermia)は、何回かに1回極めてわずかに射出精子が認められることを言い、射出精液を遠心分離してようやく精子が認められたり、あるいは認められなかったりします。極少精子症の方に顕微授精を行おうとして、採卵日に精液を採って精子がいなかった場合、せっかく採れた卵子がもったいないです(この場合、卵子を凍結保存します)。保険をかける意味で、あらかじめ射出精子を保存しておきますが、実際に溶かしてみると、使える精子がないことが少なくありません。本論文は、極少精子症の方では、射出精子より精巣精子を使用する方が顕微授精の妊娠率が良いことを示しています。

Fertil Steril 2013; 99: 1867(イスラエル)
要約:2010~2011年に、極少精子症(cryptozoospermia)の男性17名に対して、射出精子で68周期精巣精子(TESE)で48周期の顕微授精(ICSI)を行いました。受精率は両群間に有意差を認めませんでしたが、良好胚数(3.2個 vs. 5.2個)、妊娠率(15.1% vs. 42.5%)、着床率(5.7% vs. 20.7%)、生産率(9.4% vs. 27.5%)は射出精子と比べ精巣精子で有意に高くなりました。妊娠率に寄与する因子は、精巣精子使用(5.1倍)、運動精子使用(12.9倍)、パートナーの女性の年齢(0.83倍:年齢が高い方が妊娠率が低下)の3つでした。また、精巣精子を使用した群では、新鮮な場合と凍結の場合を含みますが、受精率は凍結精巣精子(33.9%)や射出精子(38%)に比べ新鮮な精巣精子が有意に高くなっていました(56.8%)。

解説:精巣を出てから尿道まで(精路)の間に精子にダメージが与えられる可能性が示唆されており、これまで、重症な男性不妊の方では射出精子より精巣精子を使用する方が顕微授精の妊娠率が良いという報告がいくつかあります。本論文は、それを支持する結果です。精巣精子のDNAダメージが最も少なく精路を通過するとダメージを受けます。これは、特に射出精子のDNAダメージが強くみられる場合に、より顕著であることが知られており、射出精子がある方でも精巣精子を使用してみる価値があることを意味します。しかし、精巣精子を用いるには、男性の手術(TESE)が必要ですから、全ての方に行うわけにはいきません。どのような方が適しているか、何回トライしてダメだった場合に行うべきかなど、今後の検討を待たねばなりませんが、最後にやってみる価値があるかもしれません。

また、もし精巣精子を使用するのであれば、新鮮な方がよりよいことも重要な情報です。新鮮な精巣精子を使うとは、採卵日とTESEの日を合わせることを意味します。それが実施可能な施設は日本では極めて限られています。

アメンバー限定記事2013.7.6「☆精子がよくない時」も併せてご覧ください。